「海賊版の被害に、漫画家は怒っています」。著者らの許可なく漫画作品などをインターネット上で公開し、いまだ深刻な悪影響を及ぼす「海賊版サイト」。その対策として開かれた文化庁の有識者検討会が今月中旬に報告書をまとめ、議論の場は国会へと移る。本格論戦を控え、「ラブひな」などの人気作を手掛けた漫画家で日本漫画家協会常務理事の赤松健さん(51)に漫画家側の本音と今後の議論に期待する点などを聞いた。 (文化部 本間英士)
今もはびこる海賊版
「『漫画村』閉鎖の後、『海賊版はいけない』という常識が広まったと期待しましたが、意外とそうはならなかった。このままでは、われわれ(漫画業界)が疲弊するのは時間の問題です」
赤松さんは語り口の中に静かな怒りをにじませる。
一昨年4月、最も悪質だった海賊版サイトの一つ「漫画村」が閉鎖。コンテンツ海外流通促進機構(CODA)は、半年で約3200億円の被害があったと試算する。問題の深刻さが多くの人に周知されたことから、状況の改善が期待されたが、海賊版がはびこる状況は今もそう変わっていないのが現状だ。
現在、海賊版サイトの数は500以上。このうち上位10サイトの利用人数は月間のべ6500万人に上る。赤松さんは「(出版社などが提供する)公式サービスに移った人も多いが、それでも海賊版を使っている人は今も非常に多い」と話す。
5つの怒りポイント
赤松さんによると、漫画家視点では少なくとも5つの「怒りポイント」があるという。
(1)自分たちの知らないところで、海賊版業者が利益を得ていること
海賊版をサイバーロッカー(電子データの保管先)にアップロードした人が収益を得ている。ある海外サイトの場合、1000ダウンロードごとに5ドルの収入があるという。
「なぜわれわれの漫画が勝手にダウンロードされて、そのうえアップロードした人が利益を得るのか。一生懸命描いている漫画家の才能や努力にただ乗りして稼ぐ行為はやめてほしい」
(2)サイバーロッカーも利益を得ていること
サイバーロッカーの中には「有料プレミアム」というシステムがあり、登録するとダウンロードが高速化する。そのため、サイバーロッカー側も利益を得られる仕組みだ。削除要請を出せばサイバーロッカー側も対処してくれるケースが多いが、逆に言えば、要請しないと削除してくれない。
「苦情を言えば『知らなかった』と言って消してくれますが、サイバーロッカー側も、ある程度悪用されているのを認識しているはずです」