【主張】米一般教書演説 余りに内向きではないか


 トランプ米大統領は、上下両院合同会議で一般教書演説を行い、大半を内政の課題に割いて「偉大な米国の再起」を誇示した。

 毎年恒例の演説は向こう一年の施政方針を米議会に表明するものだ。大統領による最も重要な演説に数えられる。

 11月の大統領選での再選を意識したとはいえ、余(あま)りに内向きな演説だった。世界の指導者としての顔が見えてこなかったのは残念である。

 米上院の弾劾裁判の評決を翌日に控え、野党民主党からウクライナ疑惑を追及される中での演説だった。

 弾劾裁判で無罪評決が下されることがほぼ確実という事情もあろう。トランプ氏は「米国は繁栄し、再び尊敬されている」と語った。選挙で鍵を握る労働者層を意識し、雇用の増加や失業率低下など好調な経済の実績を訴えることに力点を置いた。

 演説が選挙の色彩を帯びることはやむを得ない面もあるが、内政と並ぶ外交・安全保障への言及は物足りなかった。同盟国軽視の姿勢が改まっていなかった点には不満を覚えざるを得ない。

 イランやシリアの問題へ言及し、中東での戦争を終わらせ、米軍を撤退させると語った。だが、日本はおろかインド太平洋地域への言及が中国以外、ほとんどなかったのはどうしたことか。

 同盟国との関係は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に応分の軍事費負担をさせると述べた程度だった。ロシアや核開発をやめない北朝鮮にも触れなかった。

 中国についても、新型肺炎で緊密に連携していると表明したほかは、通商協議で画期的な合意に達したと強調する文脈で取り上げたにとどまる。トランプ氏は米中関係について「習近平国家主席を含めて、おそらくかつてないほど良好だ」と誇った。だが、それで本当にいいのか。

 中国は法の支配に基づく国際秩序を脅かし、力による現状変更を企てている。日本とともに米国も重視する「自由で開かれたインド太平洋」の実現には、日本や豪州など同盟国と連携して中国を抑止することが欠かせない。その決意を示してもらいたかった。

 トランプ氏は「米国は他国の警察機関ではない」とも述べた。中国やロシアに誤ったシグナルを発してはならない。



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