東日本大震災から9年になる。
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために政府主催の追悼式は中止となったが、大震災の記憶はかたときも忘れてはならない。
死者1万5899人、行方不明者2529人のほとんどが、大津波の犠牲になった。
鎮魂の日である3月11日を迎える前に、津波の恐ろしさを改めて心に刻み、命を守る決意と覚悟を新たにしたい。
津波から命を守る手立ては「避難」以外にはない。大規模な堤防が築かれようと、沿岸地域がかさ上げされようと、避難の大切さは変わらない。
高い避難意識を持ち続け、実際の行動に繋(つな)げることは、決して簡単ではない。
平成28年11月の福島県沖地震では、福島、宮城県に津波警報が発令されたが、全住民がただちに避難したわけではない。「状況を見極めてから」などと避難を見合わせた住民も多かった。
津波の怖さも避難の大切さも痛感しているはずの被災地の人たちでさえ、「揺れたら逃げる」という津波防災の鉄則を実行できるとは限らないのだ。
大震災1年前の2月末に起きたチリ沖地震を思い起こそう。気象庁は青森、岩手、宮城県に大津波警報、日本列島の太平洋岸全域に警報を出したが、自治体の避難指示や勧告に従った住民は3・8%にとどまった。
人命にかかわるほどの被害はなく、気象庁は津波の予測が過大だったとして謝罪した。無駄な避難を厭(いと)う住民意識と社会の空気が、大震災で多くの悲劇を生んだ、と考えなければならない。
それを払拭するために、津波情報が発表されたら、津波の高さなどの状況にかかわらず必ず避難することを、地域や自治体で申し合わせたらどうだろう。結果的に被害が出ない場合は「空振り」ではなく「実践的な避難訓練」と位置付けるのである。高齢者の避難誘導など津波防災の課題を、具体的に把握する機会にもなる。
大震災の2日前に起きた三陸沖地震(前震)で、もしも実践的な避難訓練ができていれば、大震災での津波犠牲者は大幅に減らせたのではないか。
津波警報や注意報が発令される頻度は低い。命を守るために「必ず逃げる」を実践したい。