11日に発生から9年を迎えた東日本大震災。和歌山県では悲劇を教訓に、県警が「津波避難推進官」ポストを設けている。各地で講演などを通じ、「津波が起これば逃げる」という基本動作の重要性を指摘。近い将来起こるとされる南海トラフ巨大地震などに備えている。現推進官の警部、角(かど)口(ぐち)哲(さとし)さん(46)は東日本大震災の発生直後に現地入りした経験もあり、「被災地の経験を風化させず、伝え続けるのが使命」と言い切る。 (藤崎真生)
東日本大震災が発生した当時、和歌山県警の刑事部に所属していた角口さんは発生から2日後の13日午前、被災地の宮城県南三陸町に車で到着した。
現地の任務は犠牲者の身元確認。同僚ら約10人と高台の上にある寺院へ向かった。道中で見た町は津波に丸ごと流され、がれき以外何もなかった。
「土台のようなものがあって『ここに家があったのか…』と感じたのですが、津波で流されて何もなかった」と振り返る。
被災者の遺体安置所となった寺院で目にしたのは、男女約10人の遺体だった。
「お年寄りや、小学生くらいの子供もいたと思う」と角口さん。身に着けているものは何か、外見的な特徴は…。身元特定につながるものが遺体にないか丁寧に調べた。
× ×
被災地で遺体と向き合った中で、「躊(ちゅう)躇(ちょ)せず逃げていれば、1分1秒でも早く逃げていれば、この人たちは助かったのでは…」という思いを強くした。