トランプ大統領が米国による世界保健機関(WHO)への拠出金を停止すると表明した。新型コロナウイルスへの対応でWHOが「中国寄り」の立場を取ったことが、世界的な感染拡大を招いた原因だとも指摘した。
国連のグテレス事務総長は直ちに「ウイルスとの戦いで、WHOの活動資金を削減するときではない」とする声明を出し、見直しを求めた。今、最も避けるべきはWHOの機能不全である。トランプ氏の手法は確かに乱暴だ。
ただし、「WHOが中国の偽情報を広めた」とするトランプ氏の批判は正しい。感染が拡大し始めた今年1月の時点で、WHOは「人と人の感染はない」「(国境をまたぐ)渡航禁止は必要ない」と主張していた。
中国寄りの姿勢が顕著に表れたのは台湾の排除問題である。
感染症との戦いに空白域を作る愚策に批判が集まると、WHOのテドロス事務局長は台湾から「人種差別を含む中傷を受けた」と言い始めた。中国外務省報道官も「テドロス氏に対する人身攻撃と人種主義の言行を強く非難する」と述べ、台湾がWHO参加を求める目的は「独立」にあるとし、断固反対すると語った。
テドロス氏と中国が一体であることを如実に示した事例だ。国際社会が結束して感染症と戦う先頭に立つべき機関のトップが、一国の政治的思惑に左右されるようでは、到底、信頼を置けない。
WHOへの米国の拠出金は年間4億~5億ドルにのぼり、世界最大である。
今後、米政府は60~90日をかけてWHOによる今回の取り組みの実態を検証する。拠出金の停止措置は米国による厳格な警告だ。WHOはこの間に自らの改革を急ぐべきだ。具体的には事務局長の更迭である。
日本政府は、WHOを含む複数の国際機関に総額約150億円の追加拠出を決めた。WHOの機能を強化することは極めて重要だ。だが、金は出すが口は出さない、では済まされない。WHOの正常化に向けて、主張すべきは声を大にすべきである。
ウイルスとの戦いは恐らく長期にわたり、WHOには全人類の司令塔として機能することが求められる。その任に堪えられないトップをいただき続けることは、もはや許されないのではないか。