トルコのエルドアン大統領が3月上旬、内戦下にあるシリアの石油開発に共同で取り組むことをロシアに提案したと明らかにした。石油収入をシリアの復興資金に充てるとの名目だが、その真意は、油田地帯を制圧している少数民族クルド人勢力を排除し、シリアへの影響力を強めることにあると指摘される。感染拡大が続く新型コロナウイルスへの対応に世界が追われる中、収束後をにらみ、国益確保に向けた布石を打っている格好だ。(前中東支局長 大内清)
ペルシャ湾岸の国々などと比べると絶対量は少ないものの、実はシリアも産油国だ。内戦前の2010年には日量38万バレルほどを産出していた。
油田は、イラクに近い北東部から東部にかけての地域に集中している。14年ごろからこの一帯を支配したイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)にとっては、原油の密売が主要な資金源の一つだった。
現在、ISに代わって油田地帯を押さえているのは、クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)だ。米軍を軸とする有志連合の支援を受け、IS掃討作戦で地上戦を担ったことで勢力圏を拡大した。
だが、シリアの隣国トルコはこれに強い危機感を抱いている。SDFの中核であるクルド人組織は、トルコでテロ組織指定を受ける「クルド労働者党」(PKK)の傘下にあるためだ。PKKがシリアに強固な拠点を持つことを危惧するトルコは昨年10月、シリア北部の国境地帯からSDFを排除するための越境作戦に乗り出している。
こうした中でトルコが繰り出した次なる一手が、シリア油田開発への介入案だ。トルコのメディアなどによると、新型コロナの感染が急速に拡大していた3月9日、エルドアン氏自身が、プーチン露大統領に提案したことを明らかにした。(1)トルコが施設建設などを行い、(2)ロシアはその費用を提供し、(3)得られた収入は内戦で破壊されたシリアの復興に充てる-とするもので、プーチン氏は「可能性はある」と前向きな態度を示したという。
トルコには、どんな打算があるのか。