今年2月まで1年間連載した「よみがえるトキワ荘」。復元施設「トキワ荘マンガミュージアム」の3月開館を前に終了しましたが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため豊島区は延期を決め、開館日は未定です。施設や地元の関係者は今どうしているのでしょう。今回は予定外の番外編です。
◇
「商店街のフラッグに『祝3月22日開館』と書いてしまったし、この日に駆けつけた地元の人もいました」
地元商店街などでつくる「としま南長崎トキワ荘協働プロジェクト協議会」の広報担当、小出幹雄さん(61)が、開館予定日の様子を教えてくれた。区役所の担当職員らもこの日、ミュージアムに集まり、高野之夫区長も午後に姿を見せ、施設がある公園にいた町会青年部の人々に「残念だったね」と声をかけたという。本来なら満開の桜を前にオープニングセレモニーが行われ、午後に一般入館者を迎えるはずだった。
同月13日に開店した公園入り口の「ふるいちトキワ荘通り店」では、手塚治虫、藤子不二雄ら元住人の作品やキャラクターグッズを販売し、コーヒーなども提供している。元住人の水野英子さんのサインと画集、昔近所にあった喫茶店「エデン」のマッチなどもあり、トキワ荘をめぐる物語性が豊かな店だ。ただ、やはり客足は少ない。
「本来ならトキワ荘に関するゼミや落語会もここで開く予定でした。今はツイッターで『来てください』とも言えないので…」と店長の上杉洋介さん。
この店の前身の時計店「スエヒロ堂」を営んでいた小出さんは、平成20年代にトキワ荘の記念碑や跡地モニュメントの設置、「トキワ荘通りお休み処」開設などに地域の一人として尽力してきた。原動力は「漫画が世界発信の文化になった原点の一つは間違いなくトキワ荘なのに、体系的に検証されていない。このまま放置してはいけない」という思いだった。
住空間としてのトキワ荘は今回、ミュージアムで再現されたが、十分とは思っていない。
「ミュージアムには図書館的機能もほしい。先生たちが投稿した雑誌『漫画少年』や、トキワ荘時代の作品などのアーカイブが必要です。80歳を超えた先生たちに、1枚の絵の裏にある物語を聞いておかなければ。やらねばならないことはたくさんある。トキワ荘が文化としてちゃんと確立するために…」
開館延期でも、訪れた人が沿道などから見入る姿もある。この街で生まれ育った小出さんは「ミュージアムができたのに、街が変わらなければ意味がない。逆に予定通りだったら、やや準備不足でオープンしていたかもしれない。この時間を有意義に使わないと」と話す。
夜になるとアパートの数部屋に明かりがともり、漫画家が住んでいると思わせる演出はすでに行われている。トキワ荘という文化を伝えるミュージアムは、静かに開館の時を待っている。(鵜野光博)