仙台高裁の岡口基一判事がラジオ番組に出演し、検察庁法改正案の問題点を指摘し、法案を批判していたことが15日、明らかになった。岡口氏をめぐっては、ツイッターに民事訴訟の当事者を揶揄(やゆ)するような投稿をしたとして、最高裁が分限裁判を開き、戒告とする決定をしており、岡口氏の発言が議論を呼ぶ可能性もある。
裁判官も私生活では一市民である以上、表現の自由が保障されている。最高裁も岡口氏を戒告とした平成30年10月の決定で「憲法上の表現の自由の保障は裁判官にも及ぶ」と言明している。岡口氏は裁判官としては異例の記者会見を開き、「表現の自由の侵害だ」などと主張。法曹界では、分限裁判が裁判官の表現行為を萎縮させかねないとの懸念も指摘された。
一方、裁判所法は懲戒理由について、職務上の義務に違反した場合▽職務を怠った場合▽品位を辱める行為があった場合-と規定。最高裁は「裁判官への国民の信頼を損ね、裁判の公正を疑わせるものがあった」として懲戒が相当だと判断した。
裁判官は公正を心掛け、公正であることはもちろん、誰が見ても納得する「公正らしさ」も要求される。過去には「法案批判」をめぐる言動が、裁判所法が禁じる積極的な政治運動に当たるとして懲戒処分とされたこともあった。
仙台地裁の判事補(当時)が平成10年、組織的犯罪対策3法案に反対する集会に身分を名乗って参加し、「パネリストとして発言するつもりだったが、地裁所長から懲戒処分もあり得るとの警告を受けたので発言を辞退する」と発言。この言動が「積極的な政治運動に当たり、裁判所法の規定に違反する」として戒告処分を受けた。
裁判所法が、裁判官の積極的な政治運動を禁じているのは、裁判官が特定の政治的立場にあることが分かれば、事件当事者らが判断内容を素直に受け取らなくなる恐れもあるためだ。
最高裁大法廷は、積極的な政治運動の禁止規定について「表現の自由を一定範囲で制約することになるが、合理的でやむを得ない限度にとどまる限り憲法の許容するところ」とし、合憲との判断を示した。
厳正中立な立場で公正な審判を下す裁判官が政治的立場を明示すれば、国や自治体が当事者となる訴訟を公平、中立に裁けるのかといった疑念も生じかねない。
表現の自由は無制限に認められるものではなく、他者の尊厳をむやみに傷つける言辞を保障するものではない。
岡口氏がラジオ番組に出演し、私見を述べたこと自体は問題ない。ただ岡口氏をめぐっては、東京都で女子高校生が殺害された事件でも不適切な投稿をしたとして、遺族らが訴追を求めており、国会の裁判官訴追委員会は弾劾裁判所に訴追すべきかどうか調査しているという経緯もある。
裁判官は「司法の独立」の観点から憲法で手厚く身分保障されている。それだけに、国民の信頼に値する言動や品位が改めて求められている。(大竹直樹)