イエス・キリストの「受難」は絵画、音楽などあらゆる芸術における重要な題材の一つとして、中世から現在に至るまで繰り返し取り上げられてきた。1世紀初頭、ローマ帝国支配下にあったユダヤの地を舞台とするこの作品でも、ウィリアム・ワイラー監督は副題としてイエスの誕生から受難、復活までを描いた。
物語はひとりの若者、ジュダ・ベン・ハー(チャールトン・ヘストン)の波乱に富んだ運命とイエスの生涯が交差しながら進む。当時「業病」とされたハンセン病に感染したことで差別を受けてきた者たちが、イエスの受難と引き換えに癒やされる「奇跡」が描かれるなど宗教的要素が強い。
一方で、家族愛や友情、民族の誇り、復讐(ふくしゅう)心などは程度の差こそあれ、人間誰もが経験しうる。また、未知の感染症に恐怖を感じ、患者やその世話をする者たちを遠ざけようとする話は、コロナ禍で洋の東西を問わず何度も耳にした。愛とは、赦(ゆる)しとは、考えさせられる描写が随所にある。
ガレー船や戦車競技場でのシーンに象徴されるように、CGではない実写の比類なき迫力を楽しめることも、時代を超えて見続けられるゆえんだろう。ブルーレイ製作50周年記念リマスター版(2381円+税)、DVD特別版(1429円+税、いずれもワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント)。配信もある。(石井那納子)