スマートフォン一つで世界のあらゆる情報が手に入る現代において、あえて「危険な場所」へと身を投じる人々がいる。ルポライターの國友公司氏と映像ディレクターの大前プジョルジョ健太氏は、まさにその最前線で活動する二人だ。彼らは一体なぜ、人々が避けがちな場所へ向かうのか。その原動力と、そこで得られる独自の感覚について深掘りする。
ルポライター國友公司氏と映像ディレクター大前プジョルジョ健太氏が対談する様子
探求者の「正直さ」と『ワイルドサイド漂流記』の衝撃
國友氏は、単身西成に潜入した体験を綴った『ルポ西成』でデビューし、新刊『ワイルドサイド漂流記 歌舞伎町・西成・インド・その他の街』を刊行した。一方、TBSを退職後、フリーの映像ディレクターとしてABEMAのバラエティ番組『国境デスロード』などを手掛ける大前氏は、國友氏の新作を読んでその「正直さ」に感銘を受けたと語る。特に、12年間ドヤの部屋にこもりゲームを続ける男性のエピソードに登場する“溶けたリモコン”の話は、読者に寒気すら覚える衝撃を与えたという。國友氏自身、「社会を良くしたい」といった普遍的な使命感が一切なく、それが自身の文章に自然とにじみ出ているのかもしれないと述べる。この点において、大前氏もまた、番組制作において同様のスタンスを持つことに強く共感を示した。
危険な場所へ惹かれる深層心理:「苦労後の快感」中毒
國友氏が危険な場所へ惹かれる原点は、人気番組『進め!電波少年』での猿岩石による「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」への憧れだという。当初は自身には不可能だと思っていたが、学生時代に自転車で茨城から鹿児島まで3週間かけて旅をしてみると、意外にも苦労なく完遂できた。この経験が、「猿岩石の挑戦も、それほど大したことではなかったのではないか」という新たな視点をもたらし、以降、積極的に危険な場所へ足を踏み入れるようになった。その最大の理由は、危険な取材で体が極限状態に達した後、家に帰り布団に入った時の「尋常ではない快感」にあると國友氏は語る。大前氏も自身の番組『国境デスロード』の中で、危険な土地でカップ麺を食し「世界で一番うまい!」と評した経験があり、この「苦労後の快感」こそが、二人をワイルドサイドへと駆り立てる中毒性のある感覚なのだという。
歌舞伎町での生活が示す「ワイルドサイド」への引力
國友氏が歌舞伎町に実際に住み着いた経験は、彼の「ワイルドサイド」への吸引力の具体的な表れだ。こうした極限状態を求める心理と、それを乗り越えた先に得られる独特の達成感や快楽が、彼らを世界の片隅や社会の深部へと向かわせる原動力となっている。彼らの探求は、一般的な社会貢献とは異なる、純粋な好奇心と個人的な感覚の中毒によって駆動されているのだ。