【北京=三塚聖平】複数の香港メディアによると、中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)常務委員会は30日に開いた会議で、香港に導入する「香港国家安全維持法」を全会一致で可決した。英国から中国に香港の主権が返還されて23年となる7月1日に合わせ、同法が施行されるとの見通しが伝えられている。高度な自治を返還後50年間にわたって保障した「一国二制度」が形骸化されることになり、香港は歴史的な岐路に立った。
トランプ米政権が新たな対抗措置を表明するなど、欧米各国は香港への統制を強める中国を批判している。習近平(しゅう・きんぺい)指導部が可決を強行したことで、米国や欧州などとの対立がさらに激化することは避けられない情勢となっている。
香港公共放送RTHK(電子版)によると、全人代常務委で唯一の香港選出委員である譚耀宗(たん・ようそう)氏は30日の会議終了後、取材に対し、同法が定めた刑罰に「死刑はない」と答えた。最高刑は終身刑になるというが、事前に伝えられていた禁錮10年よりも大幅に厳罰化されている。
香港紙の星島日報(電子版)によると、香港民主派を念頭に置き、対中制裁を外国に働き掛けることが処罰の対象になると明確化された。
法案の概要によると、香港において国家の分裂や政権の転覆、テロ活動、海外勢力と結びついて国家の安全に危害を与える行為を処罰するのが柱となっている。治安維持の出先機関「国家安全維持公署」も香港に新設する。
全人代は5月下旬、香港での抗議デモの取り締まりを狙い、国家安全法制の香港への導入を決めた。全人代の常務委会議は、通常2カ月に1度のペースで開くと定められているが、今回は6月中に2度も開くという異例のスピード審議で可決へと漕ぎつけた。
香港では立法会(議会)選挙が今年9月6日に行われる予定で、これまで民主派候補の躍進が見込まれていた。このため、選挙活動が始まる前に同法施行を習指導部が急いだとの指摘がある。