日本を代表する時代劇のひとつ「大岡越前」が今年、放送開始から50周年を迎えた。長年にわたって主演を務めた俳優、加藤剛(ごう)は常々、「見てくださる人の身になって」と語っていたという。劇中のエネルギーを、新型コロナで沈む現代社会の活力にできるか。50周年を記念してCS放送の時代劇専門チャンネルで今月から、第1部の放送が始まる。(兼松康)
「大岡越前」は、加藤剛の代表作となる名作で、昭和45年3月にTBS系で放送開始。31年から50年以上にわたり親しまれた「ナショナル劇場」枠での放送で、「水戸黄門」や「江戸を斬る」といった作品とともに、相次いでシリーズ化され、時代劇人気の一角を担った。
「常に客観的な目を持ちながら取り組んでいたのは本当にすごいと思う」
こう話すのは、加藤の次男で俳優の加藤頼(らい)(39)。頼は、NHKBSで第5シリーズまで放送されている「大岡越前」(東山紀之主演)に出演。「ナショナル劇場」でも、平成18年に放送された単発のスペシャル番組(最終回)に出演し、加藤と親子共演を果たした。
頼が生まれた昭和55年は第5部と第6部の放送の間で、59年の第8部から記憶があるという。
「父は時間があれば必ず自分の芝居をチェックするタイプの役者。『こういうシーンがあれば分かりやすかったんじゃないか』などと反省していた」と当時の様子を明かす。頼は、父の膝という“特等席”に座って放送を見ていたという。
第10部の撮影時、小学1年生だった頼は、家族で撮影所の見学に行った。「撮影セットの暗い入り口から、パッと開けたところにお白州の広い空間が出現して。とてもきれいだなと子供心に思った。神聖でピリッとした空間だったんでしょうね」と述懐する。
最終回スペシャルでは、「まさか同じ作品に出ることになるとは」との思いが胸に去来した。役名の岬大介は父が考案。劇中、「父演じる大岡が『岬』と呼ぶカットがあり、それがとてもうれしかった」と語る。
加藤剛は、視聴者に伝わりやすい作品を作ることに努力を怠らなかったという。「役者は元来、他人の役を自分の身に引き受けて、他人の身になるもの。だから、見てくださる人の身にもならなくてはいけない」と常々話していた父。頼は、それも踏まえ改めて「コロナ禍の今の時代に生かせるものを学べたら」と考えているという。「劇中では少しでも豊かに生きようとする人がたくさん登場する。そのエネルギーに触れれば、活力の一助にもなるのでは」と語った。
時代劇専門チャンネルでは14日から「大岡越前 第1部」(毎週月~金、午後5時)をスタートする。徳川吉宗(山口崇(たかし))により、江戸・南町奉行を命じられた大岡忠相(ただすけ)(加藤)が、親友の榊原伊織(竹脇無我(たけわき・むが))らの協力を得て、江戸の事件の裁きに着手する。放送開始当時、加藤は32歳。若々しい大岡の姿が描かれるのも見ものだ。8月には第2部を、以下、順次シリーズを放送する予定という。