職場におけるコミュニケーションや価値観の隔たりは、多くの企業が直面する課題です。特に変化の激しい現代において、組織の硬直化はビジネスの成長を阻害しかねません。MIMIGURI代表取締役Co-CEOであり、企業の組織づくりを支援する安斎勇樹氏は、この問題に対し、「たったひとつの問いかけが、硬直した組織や会議を動かす起爆剤となる」と提唱しています。本記事では、具体的な事例を交えながら、どのようにして「問いかけ」が職場のコミュニケーションを改善し、組織に新しい風を吹き込むのかを解説します。
「軍隊型」組織が抱える課題:A社営業チームの事例
ある食品メーカーA社の営業チームは、その強力な商品力と優秀な営業担当者によって長年売上を伸ばしてきました。しかし、その組織風土は「軍隊型」と表現されるように、トップダウンで目標が設定され、各営業担当者が個人の目標を淡々と追いかけるスタイルが常態化していました。個々が独自のやり方で販路を開拓し、実績を上げていた一方で、チームとしての協調性や、現場からの主体的なアイデア提案は不足していました。
A社の経営陣は、定番商品が売れ続ける保証がない変化の時代において、この現状に危機感を募らせていました。顧客と直接対峙する営業担当者こそが、商品改善のアイデアを生み出す源泉であると考え、現場からの主体的な提案を促すべく、営業チーム内のコミュニケーション機会の増加と風土改革を要請しました。
個人主義の壁:従来の問いかけが機能しない理由
風土改革の相談を受けた安斎氏は、早速営業担当者の話し合いのファシリテーターを務めることになりました。しかし、長年培われた個人プレイの文化と固定化された人間関係は、容易には変わらない「とらわれ(こり固まった認識や関係性)」としてチームに染み付いていました。
安斎氏が最初の問いかけとして、「みなさんが普段の商談において、大切にしていることはなんですか?」と尋ねても、返ってくるのは「お客様との信頼関係です」「人間力かな」「ヒアリングです」といった紋切り型の意見ばかりでした。これは、「営業で大事なことはこういうものだ」という、まさに「とらわれ」から来る抽象的な一般論に過ぎなかったのです。チームの関係性は一向に盛り上がらず、議論は停滞していました。
状況を変えた「意外に効果があった工夫」という問いかけ
そこで安斎氏は、問いかけに工夫を凝らしました。
BEFORE:
みなさんが普段の商談において、大切にしていることはなんですか?
AFTER:
これまでの商談で、「意外に効果があった」工夫はなんですか?
この問いかけの照準を、「普段大切にしていること」という抽象的な概念から、「これまで効果があった具体的な工夫」へと変更しました。これにより、参加者から具体的なエピソードを引き出すことを狙いました。さらに、「意外に」という言葉を加えることで、参加者の個性的な事例を話したいという衝動をくすぐり、一般的な回答ではない、よりパーソナルで具体的な体験談が語られるように仕向けたのです。この一見シンプルな変更が、硬直したチームに活発な対話をもたらすきっかけとなりました。
会議で活発に議論するビジネスパーソンたち
会議を活性化するファシリテーションの秘訣
ファシリテーターとは、会議や話し合いの目的達成プロセスを円滑に進める役割を指します。安斎氏の事例が示すように、効果的なファシリテーションには、適切な「問いかけの作法」が不可欠です。単に意見を募るだけでなく、参加者の深層にある具体的な経験や思考を引き出すような問いかけは、個人主義に陥りがちなチームや、固定化された関係性を打破するための強力なツールとなります。
抽象的な一般論で終わる議論から、具体的な経験に基づく知見の共有へと移行させることで、チームメンバーはお互いの多様な視点や工夫を認識し、新たな気づきを得ることができます。これにより、現場からの主体的なアイデア提案が促され、組織全体の活性化へと繋がるのです。
結論
職場における「コミュニケーションの壁」や「価値観の壁」は、組織の成長にとって大きな障壁となり得ます。しかし、MIMIGURI代表取締役Co-CEOの安斎勇樹氏が提唱するように、ファシリテーターによる「問いかけの作法」を工夫することで、硬直した組織や会議に新たな活力を与えることが可能です。抽象的な問いから具体的な経験を引き出す問いへの転換は、個々が持つ多様な知恵を引き出し、チーム全体の主体的な課題解決能力と創造性を高めます。このようなアプローチを通じて、企業は変化の時代を乗り越え、持続的な成長を実現できるでしょう。
参考文献:
- 安斎勇樹『新 問いかけの作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
- Yahoo!ニュース: 職場での「コミュニケーションの壁」や「価値観の壁」を打破するにはどうしたらよいのか (https://news.yahoo.co.jp/articles/f3625b00fc33b08b470df44444d8b29240fa5936)





