すでに5期26年間にわたって大統領の座にあるのに、まだ飽き足らないようだ。ロシアの隣国ベラルーシのルカシェンコ大統領である。
8月9日の同国大統領選に名乗りを上げたルカシェンコ氏の有力対抗馬らが、中央選管によって失格とされ、立候補を認められなかった。この候補者排除により、「欧州最後の独裁者」と称されるルカシェンコ氏が6選を果たしそうだ。
ベラルーシでは長期にわたって強固な独裁体制が敷かれ、反政権運動が力を持ちえなかった。今回の大統領選は、元銀行頭取のババリコ氏や元駐米大使のツェプカロ氏が独裁を批判し、広範な支持を得る異例の展開となった。
ババリコ氏は資金洗浄などの容疑で治安当局に拘束され、立候補要件を満たさないとされた。ツェプカロ氏は立候補登録に必要な有権者署名のうち約半数が無効とされた。事前のインターネット世論調査ではルカシェンコ氏が圧倒的に劣勢で、政権が恣意(しい)的に競争相手を排除したのは明らかだ。
約30年前の東西冷戦終結やソ連崩壊で、世界は自由と民主主義の理念を共有できる時代に入ると期待された。ここにきて目立つのは、独裁や権威主義が幅をきかせている重苦しい現実である。
ロシアではプーチン大統領のこれまでの任期を帳消しにし、事実上の終身独裁に道を開く憲法改正が成立した。大統領任期の条項を事実上伏せて国民投票にかけるなど、欺瞞(ぎまん)に満ちた改憲だった。
東欧のハンガリーでは、ロシアや中国への共感を隠さないオルバン政権が、メディア統制や司法制度変更によって強権統治を推し進める。ポーランドやセルビアの政権も同様の性向を有する。
日本にとっての大きな脅威は、独裁体制の総本山である中国が、民主主義の国・地域を併呑(へいどん)しようとしている現実である。
中国は香港での民主化運動を禁じる「香港国家安全維持法」(国安法)を施行し、「一国二制度」を葬った。台湾には統一に向けた圧力をかけ、日本近海で覇権主義的な行動を繰り返す。
日本は、国安法を批判した先進7カ国(G7)での結束を重視し、自由と民主主義、法の支配を守り抜かねばならない。独裁・権威主義の蔓延(まんえん)に歯止めをかけることは、日本の安全保障にも直結する課題といえる。