「身の安全を確保できなくなった。周りの人のことも考えないといけない。お許しいただきたい…」
香港民主派の元立法会(議会)議員、区諾軒(おう・だくけん)氏(33)が15日、「予備選の仕事から手を引く」と発表したとき、耳を疑った。
予備選が終わった翌日の13日に会った際には、「仕事は終わっていない。9月の立法会選に向けた候補者間の最終調整が残っている」と話していたからだ。
何があったのか。14日、中国政府が予備選について「香港国家安全維持法(国安法)への挑戦だ」と非難し、関係者の処罰を香港政府に要求したことが影響しているのは間違いない。
ただ、区氏が本当に守ろうとしたのは、自らの身の安全ではないだろう。
今年に入り、民主派の戴耀廷(たい・ようてい)・香港大准教授(56)から区氏に連絡があった。「独りではできない。手伝ってほしい-」
立法会選で民主派が過半数を制するには、候補者の乱立を防がなければならない。そのためには予備選などの準備が必要だった。
「中国共産党からにらまれるぞ」と忠告する友人もいたが、区氏は覚悟の上で戴氏の申し出を受けた。
そして予備選前夜、選挙に協力してくれた世論調査会社が、警察に家宅捜索されたことをとても気にしていたのも区氏だった。
彼はこれ以上、周りの人を巻き添えにしたくないと考えたのだ。さらに言えば、目前に迫った自らの夢を守りたいという気持ちもあったのかもしれない。
区氏は反政府デモが本格化した昨年6月以降、3度逮捕され、議員も失職した。当局による「民主派弾圧」の象徴的存在だった。
「昨年夏、(デモを取り締まる)警官を拡声器で非難したら逮捕された。冗談かと思った」と振り返る。