ウクライナ戦争の劇的な転換点となると期待された、ドナルド・トランプ米国大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領による「アラスカ首脳会談」から10日が経過しました。しかし、会談直前の状態に逆戻りしたとの評価が支配的です。トランプ大統領とJ・D・バンス副大統領は、会談前から示唆していた「制裁カード」を再びちらつかせ、プーチン大統領への圧力を強めています。これに対し、ロシア側は動じることなく、トランプ大統領が推進してきたロシア・ウクライナ首脳会談の開催についても拒否する姿勢を見せています。
トランプ大統領がホワイトハウス執務室でアラスカ会談時のプーチン大統領との写真を見せる様子
トランプ・バンス両氏による制裁カードの再提示
バンス副大統領は24日(現地時間)、米NBC放送の番組「ミート・ザ・プレス」に出演し、「制裁はテーブルから外れていない」と明言しました。さらに、「ロシアを交渉の場に引き出すため、適切な圧力を加えられるかを判断する」とし、トランプ大統領には多くのカードが残されていると強調しました。これは、プーチン大統領がロシア・ウクライナ首脳会談に対して消極的な姿勢を示したことを受け、圧力レベルを高める意図があると考えられます。トランプ大統領も22日、「ロシアとウクライナの態度を見てから我々が何をすべきか決める」と発言し、「彼らに途方もない制裁を加えるかもしれないし、あるいは何もしないかもしれない」と続けました。そして、「2週間以内に重要な決定を下す」と述べ、今後の対応を示唆しています。
21日には自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、「戦争で侵略者の国を攻撃しない限り勝つのは非常に難しい。バイデン前大統領はウクライナに防御だけをさせた」と投稿し、ウクライナによるロシア本土攻撃の可能性に言及。自身がプーチン大統領を指さす写真も共有しました。しかし、トランプ大統領とバンス副大統領の一連の発言は、会談状況がアラスカ会談直前の状態に戻ったことを逆説的に示唆していると指摘されています。トランプ大統領は7月にも、プーチン大統領がウクライナ攻撃をやめなかった場合、「50日の期限を与える」として制裁を警告していました。ワシントン・ポスト紙は、トランプ氏が再び「お馴染みの」2週間の猶予を持ち出したとし、「2週間を与えるという言葉は、彼が決断をしばらく先送りしたい時にしばしば使う」と分析しています。実際、トランプ大統領は5月にも、ロシアへの追加制裁について問われた際、「2週間以内に分かるだろう」と回答したことがあります。
バンス副大統領の「譲歩」主張とその反論
バンス副大統領は、「トランプ大統領がロシアのペースに巻き込まれているのではないか」という質問に対し、「全くそうではない」と反論しました。むしろ、プーチン大統領から多くの譲歩を引き出したと主張しています。彼は、「過去3年半の戦争で、ロシアが初めてトランプ大統領に相当な譲歩をした。核心的な要求の一部に柔軟性を見せ始めた」と述べました。
ロシアが譲歩した具体的な内容としては、「戦後にウクライナの領土保全を認めたこと」、「キーウ(ウクライナ)に傀儡政権を樹立できないことを認めたこと」、「ウクライナ領土保全のため一部安全保障が存在することを認めたこと」などが挙げられました。しかし、ロシアが実際に多くを譲歩したのかについては議論の余地があります。ウクライナの領土保全を認めたとはいえ、ロシアは自らが占領したウクライナ領土に加え、ドネツィク内のウクライナ支配地域を含むドンバス(ドネツィク・ルハンシク)全体を依然として要求しているためです。ウクライナの安全保障に関しても、ロシア抜きでの議論には同意できない立場を示しており、ウクライナ安全保障の最大の目的がロシアの再侵攻防止であるにもかかわらず、ロシア自身もこの議論に参加するという矛盾を抱えています。
ロシア、ウクライナ首脳会談を拒否
ロシアは、トランプ大統領がアラスカ会談の成果物として打ち出してきたロシア・ウクライナ首脳会談についても、事実上の拒否意思を明らかにしました。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、バンス副大統領が出演した「ミート・ザ・プレス」と同じ22日、オンラインインタビューで、「(ロシア・ウクライナ首脳会談は)予定されていない」とし、「会談をするには議題が必要だが、全く準備されていない」と語りました。
一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はプーチン大統領との首脳会談開催を求めています。彼は24日、ウクライナ独立34周年記念式典で、「首脳間の対話形式が(戦争を終える)最も効果的な方法だ」と述べました。ただし、「ウクライナは二度とロシア人が『妥協』と呼ぶような屈辱を甘受するつもりはない。我々の未来は我々自身で決める」とし、協議で容易に譲歩する考えはないことを示唆しました。
結論
「アラスカ首脳会談」から10日が経過したものの、米ロ間の和平交渉は停滞し、各国の硬直した姿勢が浮き彫りになっています。トランプ政権は制裁圧力を再開し、ロシアは主要な要求で譲歩を見せず、ウクライナとの直接対話を拒否しています。ウクライナ側は対話を望む一方で、国家主権と尊厳を損なう「屈辱的な妥協」は受け入れない構えです。この状況は、ウクライナ戦争の解決に向けた道筋が依然として不透明であり、各国の思惑が複雑に絡み合う中で、具体的な進展を見出すことが極めて困難であることを示しています。
参考文献
- AP通信
- 聯合ニュース
- NBC News「Meet the Press」
- Washington Post
- ドナルド・トランプ氏「トゥルース・ソーシャル」投稿
- ロシア外務省公式発表
- ウクライナ大統領府公式発表