長野県安曇野(あづみの)市の特別養護老人ホームで平成25年、ドーナツを食べた直後に意識を失い、その後死亡した入居女性=当時(85)=に十分な注意を払わなかったとして、業務上過失致死罪に問われた准看護師の控訴審判決公判が28日、東京高裁(大熊一之裁判長)で開かれる。准看護師側は無罪を主張しているが、1審は有罪判決だった。介護現場の死亡事故で施設職員個人の刑事責任が問われるのは珍しく、高裁の判断が注目される。
事故は25年12月12日、老人ホーム「あずみの里」で起きた。おやつの時間にドーナツを食べた女性が意識を失い、約1カ月後に低酸素脳症で死亡した。
ドーナツを配ったのは施設に勤務していた准看護師、山口けさえ被告(60)。昨年3月の1審長野地裁松本支部判決は、女性が食べ物を口に詰める傾向にあるため、事故6日前からおやつがゼリーに変更されたのに、山口被告は確認を怠ってドーナツを提供し、窒息死させたなどと認定。検察側の求刑通り罰金20万円を言い渡した。
控訴した弁護側は、おやつの変更を確認する決まりはなかったとし、女性の異変は脳梗塞などの可能性があると主張。今年1月の控訴審初公判で検察側は控訴棄却を求め、即日結審した。
弁護団などによると、事故当時は利用者17人に介護士1人で対応、偶然居合わせた山口被告がおやつ配りを手伝ったという。死亡女性の容体が急変したのは、山口被告が全介助が必要な別の利用者をケアしている最中だったとしている。
厚生労働省は昨年、全国の特別養護老人ホームと老人保健施設で29年に入所者1500人以上が事故で死亡したとの調査結果を公表。別の団体の全国調査では、介護事故の原因として職員の8割近くが「現場の忙しさ・人員不足」を挙げた。弁護団は「介護の実情を離れて過失が認められれば、介護現場の萎縮が進む」と主張する。
高齢者福祉に詳しい明治大教授の平田厚弁護士は「介護施設は少数の職員で多数の利用者をみることが多い上、給料が低く人手不足といった普遍的な課題がある。医師個人が医療事故で刑事責任を問われることはあるが、介護事故では珍しい」としている。(加藤園子)