北朝鮮には、帰国を望んでかなわない日本人が多く存在する。
拉致問題に関連する具体的な新証言である。政府は調査を尽くし、北朝鮮にその結果を突きつけてほしい。
北朝鮮に拘束され、後に解放された韓国系米国人博士が本紙に、北朝鮮で「日本人7人前後とひそかに会った」と証言した。彼らは自分の意思に反して北朝鮮に留め置かれており、大半が「だまされて来た」と説明したという。
韓国系米国人博士、ドンチョル・キム氏は2001年から中国、北朝鮮間を行き来し、15年にスパイ容疑で北朝鮮に逮捕された。18年6月の米朝首脳会談に先立ち、解放された。キム氏は北朝鮮で会った日本人の多くは「甘言による拉致被害者だ」と述べた。
日本政府は02年に帰国した蓮池薫さんら5人を含む17人を拉致被害者に認定しているが、警察や民間団体は拉致の可能性が排除できない800人以上を調べている。キム氏が会った7人前後がこれに含まれているかは分からず、新たな被害者の可能性もある。
北朝鮮は14年のストックホルム合意に基づき、拉致被害者を含む在留日本人の調査、報告を約束した。だが16年、このための特別調査委員会を解体すると一方的に宣言し、現在に至っている。合意の履行を厳しく迫るべきである。
キム氏は北朝鮮が「死亡した」と伝える拉致被害者について「実際は生きている人が多いだろう」「国際社会が秘密を知らないとたかをくくっているだろうが、知っている者はだませない。だから『日本人は生きている』と訴え続けていくべきだ」と述べた。
その通りだ。北朝鮮は「死亡説」の明確な証拠を出すことができない。送りつけられた「被害者の遺骨」は別人のものと確認された。拉致被害者全員の救出、帰国という目標は、いささかも揺るがせてはならない。
キム氏は本紙の取材に「日本政府が望むなら喜んで協力したい。知っていることは全てお話しする」と語っている。
菅義偉官房長官は29日の会見で「拉致被害者の一日も早い帰国の実現に向けて、あらゆるチャンスを逃すことなく、全力で行動していきたい」と述べた。政府は一刻も早くキム氏から詳細な証言を得て情報を精査し、日本人被害者の帰国に結びつけてほしい。