北海道・知床沖で乗客乗員26人が乗った観光船「KAZU 1(カズワン)」が沈没した事故で、北海道警が3日夕、水中カメラを船内部に複数回進入させた。行方不明者の姿は確認できていないという。船内にカメラが入ったのは初めて。依然12人が不明で、第1管区海上保安本部(小樽)などは洋上の捜索も続けた。
一方、1管は2日に続き、3日も運航会社「知床遊覧船」(斜里町)の桂田精一社長(58)と豊田徳幸船長(54)の業務上過失致死容疑で、関係先を家宅捜索した。
操船ミスがなかった場合、今後の最大の焦点は桂田社長の責任を問うための立件の可否。業務上過失致死罪は(1)危険を事前に予想できた(予見可能性)、(2)必要な措置を講じれば結果を回避できたのに怠った(結果回避義務違反)の2点を成立要件とする考え方が定着。波浪注意報が出る中での出航が問題視されているが、法曹関係者からは出航判断だけでの立件は難しいという声が上がっている。
元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は「出航後に天候が悪くなると分かった上で出航させたことは、過失に問える可能性が高い」として、予見可能性はクリアできるとの見解を示した。その上で「途中で引き返させなかったことは、結果回避義務を怠っていたと言える」と指摘した。
結果回避義務違反を証明する“突破口”として注目されるのが、桂田社長が乗客家族に配布した文書。その中で、桂田社長は航行中に船長と連絡を取るため事務所にいるのが原則の「運航管理者」だが当日は不在で、運航管理補助者として登録した社員もいなかったと説明。ほかの社員に船長と連絡を取る指示も出していなかった。
運航基準では、豊田船長は航行中、13カ所の地点で運航管理者に地点名や通過時刻、天候、波浪の状況などを連絡、毎回記録することになっているが、していなかった。
天候が悪化していく状況を把握できていれば、遭難という結果を回避すべく引き返させる判断ができたとみられ、若狭氏は「一つ一つが細かい状況証拠である」とし、立件に向けた補強材料になるとの見方を示した。
桂田社長は文書で「運航基準通りに行っていれば、早期に帰港決定するなど事故を回避できた可能性はあった」と謝罪している。
業務上過失致死罪の法定刑は5年以下の懲役または禁錮。若狭氏は有罪だった場合の量刑について、示談不成立で遺族らが厳罰を望めば「実刑で最低でも禁錮3年」とした。
≪船長の連絡怠慢が常態化≫知床遊覧船の船長が以前から運航基準に違反してツアー中の到達地点名などの連絡を怠ることが常態化していた疑いのあることが3日、分かった。関係者によると、同社の説明会で乗客家族が豊田船長からの連絡記録を開示するよう求めたところ、桂田社長はなかなか資料を示さなかった。ようやく出した書類には、到達時刻などに空白部分が散見されたという。家族側がこうした不備を踏まえ、到達時刻が遅れた場合はどうしていたのか問いただすと、桂田社長は「お客さんを楽しませるのが好きで、ちょっとぐらい遅れて帰ってくることぐらい全然ある」などと釈明したという。