公開中~公開間近の作品から、文化部映画担当の編集委員がピックアップした「シネマプレビュー」をお届けします。
★★★★★ 傑作
★★★★ 見応え十分
★★★ 楽しめる
★★ 惜しい
★ がっかり
(☆は★の半分)
■「海辺の映画館-キネマの玉手箱」
★★★★
4月に亡くなった大林宣彦(のぶひこ)監督の遺作は、題名通りにキネマの玉手箱。無声、ミュージカル…と、ありとあらゆる映画の表現手法を取り込んだ。一方で、「映画が初めから総天然色だったら?」と発想し、映像の色彩から白と黒を排除する実験もしている。伝統と革新の融合。いかにも大林監督らしい作品なのだ。
広島県尾道市の海辺の映画館が閉館することになり、最後に戦争映画の特集上映会を開く。江戸時代、幕末…さまざまな日本の戦争が描かれるスクリーンの中に、客席から3人の青年たちが飛び込んでしまう。
常盤貴子、成海璃子(なるみ・りこ)らをヒロインに小林稔侍(ねんじ)、高橋幸宏、尾美としのり、武田鉄矢、稲垣吾郎と、多彩な客演陣が入り乱れるこの一大絵巻物は、頭で理解しようとしてはいけない。大林監督の映画は、同時に一編の音楽。これは、性急なテンポで美しい旋律と不協和音がせめぎ合う狂詩曲。壮大な音の波に身をゆだね、戦争への憤りや悲しみを、聴き取り、感じ取ろう。
31日から東京・TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマなどで全国順次公開。2時間59分。(健)
■「ドキュメンタリー沖縄戦 ~知られざる悲しみの記憶~」
★★★☆
沖縄戦の体験者の証言、米軍が撮影した記録フィルムにより上陸作戦から首里城の戦闘、ガマ(自然壕)での集団自決、対馬丸事件などに迫った沖縄戦の集大成ともいえるドキュメンタリー映画。宝田明と斉藤とも子がナレーションを担当。
劇中には明暗を分けた2つのガマも登場する。ハワイ帰りの住民がいたガマの方は、「米兵は殺さない」と信じ全員が投降し助かった。もう一方のガマの住民たちは、「米兵に捕まれば殺される」と集団自決を選んだ。今年は戦後75年。戦争の悲惨さを改めて痛感させられる。
25日から東京・K’s cinema、8月1日から大阪・第七藝術劇場などで全国順次公開。1時間45分。(啓)
■「剣の舞 我が心の旋律」
★★★☆
運動会などで誰もが耳にしたことがある「剣の舞」。サクソフォンがエキゾチックな旋律を小刻みに奏でる、あの名曲だ。作曲したのは生前、日本でも公演活動を行い、日本人作曲家との交流もあった巨匠、ハチャトゥリアン。本作は、若き巨匠がひと晩で書き上げた名曲の誕生秘話を描いている。
監督は、制作会社が行ったハチャトゥリアン物語の脚本コンテストで優勝し、映画化を勝ち取ったという。自伝や記録、遺族の証言から「剣の舞」の完成前後の2週間に着目し、5年の歳月をかけ執筆。曲にまつわる豆知識を楽しめる作品だ。
31日から東京・新宿武蔵野館、8月7日から大阪・テアトル梅田などで全国順次公開。1時間32分。(啓)
■「プラド美術館 驚異のコレクション」
★★★☆
スペインの首都、マドリードにあるプラド美術館には毎年約300万人が訪れ、昨秋、開館200周年を迎えた。15世紀から19世紀にかけて歴代のスペイン王室が買い集めた美術品約8700点が収蔵されている。中でも注目はベラスケスやゴヤ、エル・グレコの傑作群。
その美の宝庫に今回、カメラが初密着し、普段は関係者以外立ち入り禁止エリアにも潜入。カメラは作品を限界まで接写し、天才たちの筆づかいを克明に映し出した。コロナ禍の中、館長やベテラン学芸員の解説に耳を傾けながら、プラド美術館の魅力に浸るのも良いかもしれない。
東京・新宿シネマカリテ、大阪・なんばパークスシネマなどで公開中。1時間32分。(啓)