2023年10月、イスラエルへの越境攻撃を仕掛け、民間人ら約1200人を殺害したハマス。この奇襲攻撃から始まった戦争は現在も続いています。中東情勢を大きく揺るがすハマスとは、いったいどのような組織なのでしょうか。
ハマス誕生の背景と目的
ハマスが結成されたのは1987年、イスラエルによるパレスチナ占領への抵抗としてパレスチナ人が立ち上がった「第1次インティファーダ(民衆蜂起)」のさなかでした。その母体となったのは、エジプトを拠点とするイスラム組織「ムスリム同胞団」のパレスチナ支部です。
組織名の「ハマス」はアラビア語で「イスラム抵抗運動」を意味します。その主要な目的は、イスラエルの国家としての存在を認めず、歴史的なパレスチナ全土の「解放」と、そこにイスラム国家を樹立することです。
ガザ地区での台頭とパレスチナ内部の分断
もともとパレスチナ自治区、特にガザ地区では、より穏健とされるパレスチナ解放機構(PLO)が主要な政治勢力として活動していました。しかし、2006年のパレスチナ評議会選挙でハマスが予想外の圧勝を収めます。
PLO主流派であるファタハとの間で統一政府が試みられましたが、翌年には激しい対立が生じ、ハマスが武力によってガザ地区を制圧しました。この出来事以降、パレスチナ自治区はガザ地区をハマスが、飛び地であるヨルダン川西岸地区をファタハ主導のパレスチナ自治政府が統治するという分断状態が現在まで続いています。
人質引き渡し前のガザ地区南部ハンユニスで警備にあたるハマスの戦闘員
組織構造と活動
ハマスは政治的な意思決定を行う部門と、軍事作戦を実行する部門を持つ二重構造の組織です。その戦闘員は1万5000人から2万5000人に上ると推定されています。特に1990年代から2000年代前半にかけては、イスラエル市民を標的とした自爆テロを繰り返し実行し、米国、欧州連合(EU)、そして日本からもテロ組織に指定されました。
一方、ハマスはガザ地区の貧困層に対する社会支援活動にも力を入れています。学校や病院、モスク(宗教施設)の運営などを通じて地域住民との結びつきを強め、一定の支持基盤を築いてきました。
ハマスを支援する国々
ハマスは複数の国や組織から支援を受けています。主な支援国としてトルコやカタールが挙げられますが、イスラエルと敵対関係にあるイランが最大の「後ろ盾」とされています。イランの最高指導者アリー・ハーメネイー師は、2024年2月に面会したハマス幹部に対し、「シオニスト政権(イスラエル)を打ち負かした」と称賛の言葉を述べています。
グレネードランチャーを構えるハマスの戦闘員
現在の状況と課題
度重なるイスラエルとの軍事衝突により、ガザ地区の市民は甚大な犠牲を強いられています。特に2023年10月に始まった戦闘では、ガザ側の死者が5万7000人を超えるという報告があります。空爆や封鎖による人道危機も深刻化しており、ガザ内部ではハマスに対する抗議の声も一部で上がっていると伝えられています。
イスラエル軍による幹部の殺害が相次いだことにより、ハマスの組織力は大幅に低下していると見られています。しかし、イスラエルや米国が描く「ハマス抜きの」戦後統治構想は、ガザ地区におけるハマスの根強い影響力と、それに代わる明確な勢力が見当たらないことから、いまだ現実味を欠いている状況です。
ハマスは組織的な弱体化の兆候が見られるものの、ガザ地区におけるその存在感は依然として大きく、今後のパレスチナ情勢や中東和平の行方を考える上で避けて通れない存在であり続けています。
参考文献:
https://news.yahoo.co.jp/articles/82ce45434b9eb697cad412244fdb4a9b7bb9b4df