大阪府警に昨年4月発足した人身安全対策室は、DV(配偶者間暴力)やストーカーとともに児童虐待事案の初動対応を担う部署。「逮捕」ありきではなく、虐待の兆候を見逃さず、各家庭に「介入」する姿勢に重きを置いている。今年1月上旬の深夜、捜査員ら約10人が宿直勤務にあたる府警本部3階の一室は、一本の通報によって張り詰めた緊張感に包まれた。
午後11時5分、黄色のランプが点灯すると、ピィーという甲高い機械音が響いた。
「夫と口論になって、顔を殴られた。仲裁に入った子供もたたかれている」
暴力を受けた子供の母親からの110番通報の内容が、リアルタイムでパソコンのモニターに表示されると、捜査員が大声で読み上げた。すぐさま陣頭指揮を執る男性警部(52)が尋ねた。
「子供のけがの程度は入ってきてないか」「ほかに子供はおらへんのか」。捜査員らが別の端末を操作し、府警のデータベースに保管されている通報元の一家に関する警察や児童相談所(児相)での取り扱い歴などを調べ始めた。
数分後、新たな情報が飛び込む。一家には乳児を含めた3人の子供がおり、暴力をふるった父親が4歳の女の子と0歳の男の子を連れて車で自宅を出たという。過去にはネグレクト(育児放棄)の疑いで対応した記録もあった。「あかん。出動して母親への傷害か暴行の容疑で父親の緊急逮捕も見据えて動こう」。警部が強い口調で指示を飛ばした。
通報から約1時間後の午前0時すぎ。捜査員2人が現場の公営住宅に到着すると、すでに所轄署の警察官ら約20人も駆け付けていた。通路にはベビーカーや子供用の傘が置かれ、生活感が漂う。玄関には多数の靴が雑然と並ぶが、洗濯物や洗い物がたまっている様子はなかった。虐待が疑われる家庭はごみ屋敷のような状態が多く、部屋の状況は重要な判断要素だ。室内ではすでに30代の母親と小学生の男児が事情を聴かれていた。