参院選での自民党大敗後、党内で活発化する「石破茂首相の進退を巡る動き」に対し、連立パートナーである公明党は冷ややかな目を向けています。有権者の「与党離れ」が加速する事態を危惧し、特に公明党の支援母体である創価学会の幹部や多くの会員からは、逆風下で自民党が一定の議席を確保できたのは、公明党が「一人区で懸命に支援したから」との強い思いがあります。選挙の総括を後回しにして権力闘争に明け暮れる自民党の姿は、彼らの不信感を募らせる一因となっています。
参院選の厳しい現実:自公両党の目標と結果
今回の参院選において、公明党は「改選14議席(選挙区7、比例7)の維持」と「比例代表700万票の獲得」を目標に掲げていました。しかし、結果は埼玉、神奈川、愛知の3選挙区で現職が落選。比例代表の得票も過去最低の521万票にまで落ち込み、獲得議席は8議席(選挙区4、比例4)に後退しました。
一方、自民党も改選52議席から13減の39議席(選挙区27、比例12)と大敗を喫しました。これにより、自民党と公明党を合わせても過半数維持に必要な50議席には届かず、参議院では与党が過半数割れとなりました。しかし、主要メディアの情勢調査で「一人区」での自民党の苦戦が報じられていたことを踏まえると、最終的な「14勝18敗」という結果に対しては、「負け越しではあるが、よく踏みとどまった」という見方が政界では少なくありません。
公明党の「下支え」がなければ自民党はさらに大敗か
自民党が「負け越し4」で踏みとどまることができた背景には、候補者を立てなかった公明党の支援が大きく影響しています。これは、今回の参院選における32の一人区での得票分析から明らかになります。
公明新聞が7月22日に報じた各都道府県ごとの政党別比例得票数に基づき分析すると、「一人区」で自民党が勝利した14選挙区のうち、単純計算(次点との票差から公明党の比例票を差し引く)で、公明党の支援がなければ9選挙区で結果が逆転していたことが判明します。この場合、自民党が単独で勝利できたのは石川、福井、岐阜、鳥取・島根、山口のわずか5選挙区に留まります。
また、自民党候補者の中には「比例は公明党に」と呼びかけるケースがあったことを考慮し、公明党の比例票の2割が自民党関係者の票で、本来の公明党票が8割だったと仮定した場合でも、7選挙区で敗北していた計算になります。
さらに、改選数が2以上の選挙区で、自民党現職が最下位の3位で辛くも当選した北海道と千葉でも、次点との票差から、公明党票がなければ落選は確実でした。これらの分析から、もし公明党の支援が全くなかった場合、自民党は最悪で11減の28議席、良くても9減の30議席にまで落ち込んでいた可能性が高いと結論付けられます。
石破茂首相と公明党の斉藤鉄夫代表が党首会談前に握手する様子。参院選後の自公連立の行方を示す重要な場面。
「弔い合戦」の敗北と公明党の複雑な胸中
公明党にとって今回の参院選は、2023年11月に死去した党の創設者である池田大作創価学会名誉会長の「弔い合戦」という位置づけでした。昨年10月の衆院選、今年6月の東京都議選で既に敗北を経験しており、公明党としては「絶対に負けられない戦い」だったのです。しかし、将来を嘱望されていた中堅・若手の候補者3人が選挙区で落選するなど、再び苦杯をなめる結果となりました。
公明党関係者からは「自らは深手を負いながらも、今回の参院選で自民党を懸命に下支えした」という本音が漏れています。この敗北を受け、斉藤鉄夫代表は7月21日に石破茂首相と会談し、引き続き自公両党で政権運営に当たっていく方針を確認しました。石破首相が日米間の関税交渉など諸課題への協力を求めたことに対し、斉藤代表も同意しています。
自民党内の「権力闘争」に募る公明党の不信感
このような複雑な事情や経緯があるにもかかわらず、自民党が参院選の総括を十分に行わない段階で、石破首相の進退を巡る党内抗争を繰り広げていることに対し、公明党の議員や創価学会の会員の多くは苦々しい思いを抱いています。元党幹部の一人は「若い世代の支持がますます離れていくという危機に直面している中、国民感覚とかけ離れた動きには呆れるばかりだ」と語っており、自民党への不信感は募る一方です。
参院選の敗北から目を背け、内向きな権力闘争に終始する自民党の姿は、有権者のさらなる「与党離れ」を招きかねません。公明党が抱く不信感は、自公連立政権の安定性にも影響を与えかねない喫緊の課題であり、自民党には抜本的な反省と、国民の信頼回復に向けた具体的な行動が求められています。
参考資料
- 時事通信解説委員長 高橋正光
- 公明新聞