中国からの統一圧力に直面する台湾にとり、安全保障を依存する米国は最大の後ろ盾だ。台湾の民主化を進めた李登輝(り・とうき)元総統は、「自由と民主主義」を旗印に米国との関係強化に取り組んだ。李氏が切り開いた米台関係の道筋は、現在の蔡英文(さい・えいぶん)政権にも引き継がれている。
後に「ミスター・デモクラシー(民主化の父)」と称される李氏の政界進出も、米国の存在と無縁ではなかった。1979年の米台断交とそれに伴う米華相互防衛条約の失効は、独裁体制の蒋経国(しょう・けいこく)政権に衝撃を与えた。外憂を抱えた蒋経国は足下の体制安定のため、人口で多数を占める李氏ら「本省人」を政権に登用、李氏の総統就任に道を開いた。
また、米議会などから批判を受け、38年間続いた戒厳令の解除や野党・民主進歩党の結党容認など、民主化の基礎となる自由化を進めた。
蒋経国の死去で総統に昇格した李氏は民主化を進める一方、社会主義の中国と対峙(たいじ)する上で、米国との関係強化に「民主主義」を利用した。95年6月には、対中融和的なクリントン政権を窓口とせず、自由と民主主義という理念への共感を得やすい米議会から支持を取り付け、現職総統として初の訪米を実現した。
初の政権交代を実現した民進党の陳水扁(ちん・すいへん)氏は、2期目に「台湾独立」志向を強めて米国に「トラブルメーカー」とみなされ、国民党の馬英九(ば・えいきゅう)氏に政権奪還を許す一因となった。
馬氏も政権発足当初は「親米・和中」路線が米国に歓迎されたが、対中傾斜を強めて米国との距離感が目立つようになった。特に南シナ海問題で中国と歩調を合わせたことで、欧米から批判を招いた。
現在の民進党の蔡総統は、陳、馬両政権の反省から、中国と距離を保つ一方で、中国を挑発せず低姿勢を取る「優等生」的な対応で、米国の支持を得ている。李氏を彷彿(ほうふつ)させる「理念の近い民主主義国家との連携」を強調する姿勢は、米議会、トランプ政権の双方から支持されている。
(前台北支局長、田中靖人)