米共和党のトランプ大統領は民主党のバイデン前副大統領との最後の直接対決となった22日の大統領選討論会で、過激な挑発を封印した。前回討論会でバイデン氏への答弁妨害を非難されたトランプ氏は、世論調査で劣勢が続く中、自滅の回避を優先。双方とも決定打はなく、選挙戦は最終盤に入った。
【図解】対決 バイデン氏 VS トランプ氏
◇失言誘う戦略不発
「感染拡大のピークは越えた。(ウイルスは)消え去っていく」(トランプ氏)
「『夏になれば終わる』と言っていた。もうじき暗い冬が来る」(バイデン氏)
2人の討論は新型コロナウイルスをめぐるこんな応酬から始まった。普段と違ったのは、トランプ氏の反応だ。時折メモを取るしぐさを見せ、バイデン氏の発言を待って一つ一つ反論した。
トランプ氏は2度、形勢逆転の機会を逸している。「史上最悪の討論」と呼ばれた第1回に続き、コロナ感染で中止となった第2回の代替イベントとなった15日の対話集会でも、NBCテレビの女性キャスターと衝突。「穏健な共和党支持層や女性の反発を招いた」という見方がある。
米メディア「アクシオス」によると、トランプ氏は陣営の事前練習で、バイデン氏の答弁中に口を挟まず、「より好感が持てる」対応を取るよう助言を受けたという。「完全な偏見の持ち主」とののしってきた司会者クリステン・ウェルカー氏にも「あなたの討論の進め方にとても敬意を抱いている」と述べ、立てることを忘れなかった。
トランプ氏の戦略には、バイデン氏に自由にしゃべらせ、失言を誘う狙いもあった。しかし、バイデン氏は時折言葉に詰まりながらも大きな失態を演じることはなく、手堅さが際立った。
息子ハンター氏がウクライナ企業から巨額の報酬を受け取っていた疑惑をめぐり、バイデン氏は「倫理に反することはしていない」と反論。逆にトランプ氏が中国に銀行口座を保有していると報じられた問題を取り上げ、「何を隠しているんだ」と納税申告書の公表を迫った。
◇国家観の違い明確
トランプ氏とバイデン氏の国家観の違いが浮き彫りになったのは、米国民の融和に向けた考え方をめぐってだ。
「私は米国の大統領になる。私に投票した人もそうでない人も、全ての国民を代表する」。こう述べたバイデン氏に対し、トランプ氏は「われわれを団結に導くのは『成功』だ」と語り、理想より国民生活の向上を重視する考えを示した。
テネシー州立ミドルテネシー大のジェームズ・サイラー教授は今回の討論について「大統領選の基本構図に大きな影響をもたらさなかった」とみる。ただ討論以外の活動次第で、情勢が動く余地は残されている。
トランプ氏は1日2回の選挙集会をこなす猛烈な地上戦を展開。一部激戦州ではバイデン氏との差を縮めているという分析もある。逃げ切りを図るバイデン氏に対し、トランプ氏は残り10日余り、自身の支持者をさらに奮い立たせ、勝負を懸ける構えだ。(ワシントン時事)