「彼氏、幼く見えるね」。会員制交流サイト(SNS)での何げないコメントが、少年ら50人を巻き込む傷害事件に発展した。兵庫県警は今月10日までに、大阪の19歳の大学生に全治約6カ月の大けがを負わせたなどとして、神戸の少年ら計9人を傷害容疑で逮捕。SNSのコメントをきっかけに、SNSでつながる少年らが憎悪を膨らませる-。なぜ事件は拡大したのか。(堀内達成)
【写真】少年ら50人を巻き込む傷害事件があった公園
神戸水上署によると、今年8月19日、若いカップルが写真共有アプリ「インスタグラム」で配信した動画が発端だった。
カップルは交際1カ月記念として、女性(19)がインスタの動画生配信機能「インスタライブ」で男性(19)=大阪府=を紹介した。
すると、その配信を見ていた女性の知人女性(19)=兵庫県=が「彼氏、幼く見えるね」とコメントを書き込んだ。インスタライブでは生配信中にコメントが表示されるため、それを見たカップルの男性は小ばかにされたと思ったのか、生配信中に「殺すぞ」と発言した。
3日後、知人女性は自分の交際相手や友人がいる場で、「殺すぞ」と言われたいきさつを説明。すると内装工の少年(19)=神戸市=が「どういうことや」と激高。「謝らせたる」と約束し、カップルの男性とSNS上で連絡を取り合い“話し合いの場”として、神戸市中央区の「みなとのもり公園」に集合することになった。
翌8月23日午前1時半ごろ、集まったのは「殺すぞ」と言った大阪側が約10人、「謝らせたる」と言った神戸側が約40人。神戸側は無料通信アプリ「ライン」などを通じて「大阪のやつともめているから来てくれ」、大阪側も「このまま会ったらけんかになるから来て」などと仲間に呼び掛けた結果、大人数になった。
圧倒的劣勢に立たされた大阪側は、顔面を骨折するなど、最大で全治6カ月のけがを3人が負った。最初に「殺すぞ」と言った男性にけがはなかった。
同署は、傷害の疑いで神戸市内に住む16~20歳のアルバイトや高校生ら9人を逮捕。神戸少年鑑別所に送られるなどした。
被害者側の保護者は「息子は友人に誘われ、事情もよく分からないまま車で公園に向かった。話し合いもなく、いきなり襲撃され、相手から『まだ生きてたんか』などと言われたらしい。少年同士の乱闘と思われているようだが、一方的な傷害事件だ」と話した。
同署は「110番があり、警察官が駆けつけたため、暴行は20分ほどで中断された。興奮している状態なので、もし通報がなかったら事態はもっと深刻だったかもしれない」とする。
■ネットでのやりとり憎悪肥大化 阿部真大・甲南大文学部教授(社会学)の話
「彼氏、幼く見えるね」や「殺すぞ」というコメントは、相手が目の前にいたら言うだろうか。SNSでは気持ちが大きくなったり、相手への配慮が足りなくなったりする恐れがあり、感情や意見が極端化しやすい。
対面だと言葉以外に表情やしぐさからも情報を得て、多面的に人間を判断する。しかしネットでは相手に単純で分かりやすいレッテルを貼りがちになる。今回のケースも、ネットのみのやりとりから想像の中で憎悪を肥大化させ、相手を分かりやすく「敵」とみなしたのかもしれない。米大統領選で見られたネット上の分断の構図と似ている。
感情は、ネットから現実社会に持ち越されてしまう。コミュニケーションが成熟していない若者は特に注意が必要だ。
【インスタライブ】 人気SNSの一つ「インスタグラム」の生配信機能。誰でも気軽に生放送番組のような動画を配信できる。配信中に視聴者が感想や質問を送り、配信者とコミュニケーションを取ることができる。芸能人が利用し、ファンと直接交流できる場になっている。