トランプ大統領の演説、民主主義への危険性示した46分間


トランプ大統領の演説、民主主義への危険性示した46分間

トランプ氏が演説で持ち出した数えきれないうそと陰謀論をここで繰り返すつもりはない。演説は以下の壮大な宣言で幕を開けた。「これは私が今まで行った中で最も重要な演説になるかもしれない」。なぜ重要かと言えば、この演説こそまさに退任の決まったこの大統領が望んでいることだからだ。つまり、メディアが自分の発言を報じてくれるからだ。その結果、うそが粉飾され、何か新しい、より意味のあるものに見えてくるのをトランプ氏は願っている(そして一部のメディアは、実際にそれを行うのだ! 保守系の放送局や出版社は、この演説を正当な大統領演説のように報道するだろう。すでに虚偽と証明されたくだらない話を、大統領の口から出たそのままに伝える。まるで実際には議論の余地がある内容であるかのように)。

今回のトランプ氏の行動は、くだらないもしくは恥ずかしいといった次元を超えてしまった。今や事態は、まさしく危険な領域に突入している。

選挙結果が本当に不確定だった投票日直後の数日間とは異なり――あるいは選挙結果でバイデン前副大統領が次期大統領に選ばれたにもかかわらずトランプ氏とそのチームが未決着の接戦州で多くの訴訟を起こしていたあの1週間余りとは異なり――、現在は全く疑いの余地なく、誰が11月3日に勝利したかが明らかになっている。トランプ氏の弁護団は米国中で極めて多くの訴訟を起こしたが、その勝敗記録をみればNFLのニューヨーク・ジェッツも思わず赤面するに違いない。バー司法長官は「これまでのところ、選挙結果を覆しかねないほどの大規模な不正は見つかっていない」と認めた。一方で、バイデン次期政権への移行プロセスは加速している。

つまり、この問題には決着がついたのだ。訴訟も陰謀論もことごとく行き詰まっている。トランプ氏と日に日に数を減らす熱心な支持者たちの取り組みが実を結ぶことはない。

にもかかわらず、トランプ氏は2日、さらに多くのうそをまき散らした。大統領の地位と権力をよりどころにしながら。同氏が立った演壇には、合衆国大統領の紋章が入っていた。両脇には星条旗と、やはり大統領紋章をあしらった旗。何を言わんとしているか、いやでもわかる。自分は大統領としてここに立ち、正式な資格に基づいて発言するというメッセージだ。敗れ去る候補者ではなく、自由世界のリーダーとして。

トランプ氏は進んで大統領の権力を持ち出し、誤りとされた主張の後ろ盾とした。その目的は安全で公正な選挙という概念そのものを盛大に棄損し、平和的な政権の移行を阻害することにあった。こうした動きは、はっきりとした選択の瞬間を共和党の指導層にもたらす。彼らが概して静かに支持を表明するその傍らで、トランプ氏はますます異様な主張を展開し、11月3日に何が起きたかを訴え続けているのだ。

共和党のマコネル上院院内総務やマッカーシー下院院内総務といった人々にとっては今がその時である。立ち上がり、次のように明言するべきだ。「私は現大統領に協力した。現大統領に投票した。投票結果に異議を唱えて訴訟を起こすその権利を支持した。しかし、今や明らかなように、勝ったのはジョー・バイデン氏だ」

なぜなら、トランプ氏の46分間に及ぶ痛烈な非難を経てもなおそうした発言がないのは、単に無責任というだけでなく危険だからだ。もし共和党議員が立ち上がって、「もうたくさんだ」とトランプ氏に告げられないなら、同氏は今後も同様の言動を続けるだろう。その質は下がる一方となり、さらにとんでもない陰謀論を持ち出すに違いない。捏造(ねつぞう)は止まらず、一段と力を入れてバイデン氏の大統領就任の正当性を攻撃するだろう。

それは非常に悪質であり、極めて危険なことだ。共和党と民主党のどちらの支持者であるかは関係ない。単純に、退任する大統領が選挙結果について作り話をするのを許すわけにはいかない。しかもトランプ氏が間違っていると分かっているにもかかわらず、党内から反対の声が全く上がらないなどというのは言語道断である。

身をかがめて守りに入ってしまうのは共和党の重鎮たちの基本姿勢で、それはこの4年間変わらない。米国内を見渡せばその弊害は明らかで、人命も失われている。今こそ共和党議員は声を上げるべきだ。これ以上何もしなければ、手遅れになるだろう。

ただただ身勝手な理由で我々の民主主義の支柱を危険にさらす――しかも大統領の名声と権力をそれに利用する――。このようなことは健全な共和制において認められない。大統領からのツイートがどれほど恐ろしいものだろうと、それは問題ではないのだ。

本稿はCNNのクリス・シリザ編集主幹による分析記事です。



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