渡辺容疑者宅に向かう警察官ら(28日午前7時57分、埼玉県ふじみ野市で)
(写真:読売新聞)
埼玉県ふじみ野市で27日夜に起きた人質立てこもり事件で、殺人未遂容疑で逮捕された渡辺宏容疑者(66)が、事件の最中の捜査員とのやりとりで、「医師らに謝らせたかった」などと話していたことが、捜査関係者への取材でわかった。前日に死亡した母親(92)の入院を巡って、渡辺容疑者は、犠牲者の医師鈴木純一さん(44)と意見が対立していたといい、県警は詳しいトラブルの原因を調べている。
県警幹部などによると、渡辺容疑者は母親を一人で在宅介護していた。人質を解放するよう電話で説得を行っていた捜査員に対し、事件を起こした理由について、母親の診療などを巡り、鈴木さんらの対応に不満があったと説明。「謝らせたかった」などと話していたという。
一方、鈴木さんが所属する東入間医師会には昨年1月以降、今月24日までの間に、渡辺容疑者から母親の診療方針について十数回にわたって電話相談があったという。母親を入院させるよう勧める鈴木さんの意見に反対し、在宅で介護を続けたいという内容だった。県警は、母親が死亡したことで、渡辺容疑者が鈴木さんら診療に当たっていた関係者を逆恨みした可能性があるとみて、慎重に動機を調べる方針だ。
事件を受けて、在宅医療を担う医師からは、患者や家族と関係を築く難しさを指摘する声が上がった。
渡辺容疑者が立てこもった自宅(中央)(28日午前9時1分、埼玉県ふじみ野市で、読売ヘリから)=富永健太郎撮影
東京都世田谷区の「恵泉クリニック」の太田祥一院長は「高齢患者や家族と意思疎通がうまくいかず、怒られた経験はある」と話す。
静岡市の「つどいのおかクリニック」の岡慎一郎院長は「患者が思いがけずに早く亡くなり、こんなはずではなかったと憤る遺族もいる」と言う。家庭という閉鎖空間で診療する難しさにも触れ、「医師が在宅医療を敬遠するようにならないか」と懸念する。
亡くなった鈴木医師、仲間の信頼厚く
(写真:読売新聞)
立てこもり事件で犠牲になった医師の鈴木純一さんは多くの患者に頼られ、昨夏の新型コロナウイルスの「第5波」では自宅療養者の健康観察に奔走していた。
東入間医師会の関谷治久会長(66)によると、鈴木さんは二つの在宅クリニックを運営し、埼玉県ふじみ野市、富士見市、三芳町の在宅患者の8割ほどにあたる約300人を診療していた。