死亡事故の原因は 「かなり危険な踏切」全盲の記者が現場で体験


死亡事故の原因は 「かなり危険な踏切」全盲の記者が現場で体験

遮断機が下りた事故現場の踏切。電車が迫る=2022年4月28日午後6時11分

【「かなり危険な踏切」全盲の記者が現場で体験】

 ◇「点字ブロック、かなり摩耗」

 「かなり危険な踏切」。私が現場で最初に感じた印象だ。踏切は幅4・7メートル、奥行き8・2メートル。電車が南北に走り、1車線一方通行の道路が東西に横切る。車はひっきりなしに通る。

 踏切につながる道に歩道はなく、白線で区切られた路側帯だけ。しかし、踏切から2歩ほど手前の白線上には黄色い警告用の点字ブロックが敷かれている。堀内さんから「点字ブロックがかなり摩耗している」と教えられ、手を伸ばす。縦横2枚ずつ並ぶ点字ブロックのうち、右上の1枚が完全にはがれていた。

 道路と踏切の違いは、私にはよく分かった。踏切の手前には上りの傾斜があり、踏切内の路面は硬いゴム製でつるつるしていて、渡り終えると下りの傾斜になるからだ。近鉄によると、2005年にアスファルトからゴム製舗装への改良工事を行ったという。点字ブロックの敷設もこの時期のようだ。視覚障害者団体が2、3年要望して実現した。

 ◇カメラに残る事故状況

 亡くなったのは、近くで治療院を営む高垣陽子さん(50)。近鉄によると、運転士が踏切内にいる人に気づき急ブレーキをかけたが、間に合わなかった。踏切には「障害物検知装置」が設置されている。装置から出た光線が踏切内で立ち往生した車などで4秒以上遮られると、運転士に知らせるシステムだ。しかし、今回は検知できる状況ではなかったため作動しなかった。

 事故の状況は警察が入手した監視カメラに残っていた。高垣さんは踏切の西側から道路左端の白線付近を歩いていく。右手に白杖を持ち路面をたたいて進む。やがて白杖を左手に持ち替え、右のポケットから取り出したスマートフォンのようなものを胸のあたりに構え、うつむいたまま歩く。踏切内の中央を越え、2本目の線路を過ぎたあたりで足を止める。遮断機が下りる警報音が鳴ったようだ。その後、スマホのようなものを右ポケットにしまい、白杖を右手に持ち替え、車から身を守るように左に1歩動く。あと少しで踏切の外に出る位置だ。しばらく立ち止まっているが、急に回れ右をして戻ろうとし、南から走ってきた電車にはねられる。

 奈良県警郡山署によると、目撃者は、高垣さんとすれ違った人が1人、踏切近くから見た人が1人。事故そのものを見た人はいない。同署は、高垣さんが立ち止まったのは踏切の手前と勘違いしていた恐れがあると考えている。電車の警笛で踏切に近づきすぎていると思い、離れようとしたのではないかとみる。

 映像を見た堀内さんは「警報音を聞き立ち止まった時点では踏切の手前にいると判断したかもしれないが、電車の警笛で踏切の中にいると思い、慌てて外に出ようとしたのでは」と推測する。私も、踏切の手前の傾斜は緩やかで、終わる直前は平たんなうえ、足裏の感覚も似ていると感じた。急に鳴り出す警報音は初めかなり大きく、びくっとする。そのうえ電車の警笛を聞けば、相当動転するだろう。

 ◇迂回路あったが…

 事故現場には、迂回(うかい)路がある。約66メートル南にある踏切を通るルートだ。この踏切の幅は事故現場の半分ほどで車は通らない。視覚障害者からの要望で手前の中央には13年、4枚の黄色い警告用点字ブロックがT字形に付いた。だが、高垣さんの治療院からは遠くなり、そもそもこの迂回路を知らなかった可能性もある。

 ◇再発防止へ提案

 現場を歩いたという奈良県視覚障害者福祉協会の会長で全盲の辰巳寿啓(としひろ)さん(64)は、次の三つを提案する。①踏切内のエスコートゾーン(点字ブロックのように足裏で分かる突起)の設置②踏切内の様子を確かめ、危険回避の行動を学ぶ研修会③踏切での街行く人からの声かけの啓発――だ。

 事故後、大和郡山市や障害者団体、近鉄、警察による話し合いも持たれている。そこでは、踏切の中にいるのか外にいるのかが、遮断機に触ったり警報音を聞いたりして分かるような工夫を求める声も出たという。

 市は「早期に改善したい」と話す。まずは、はがれた点字ブロックの早急な修復など、考えうる限りの手立てで再発防止に全力を尽くしてほしい。【佐木理人】



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