
取材を受ける塩崎恭久さん=2022年4月25日、東京都千代田区
官房長官や厚生労働相を歴任し、昨年10月に政界を引退した元衆議院議員の塩崎恭久さん(71)。今年2月、妻の千枝子さん(70)とともに里親登録し、地元・松山市で里子を迎える日を待っている。
【写真】「子どもは特定の大人と愛着形成することが最も大事だ」と塩崎さんは指摘する
里親とは、虐待などさまざまな事情で家族と暮らせない子どもたちを、家庭環境の下で養育する制度。厚労省によると、児童養護施設などに預けられている子どもは2020年度末時点で3万3810人に上るが、里親委託率は22.8%にとどまっている。
塩崎さんは「子どもは特定の大人と愛着形成することが最も大事だ」と指摘。厚労相として、児童福祉法に子どもの権利や家庭養育優先の原則を明記するなど、制度の抜本改正に取り組んだ。今度は制度を使う立場として、その背景や課題について話を聞いた。(時事通信政治部 栗原ゆり)
厚労相時代に理念を大転換

改正児童福祉法が可決、成立し、一礼する塩崎恭久厚生労働相(左手前)=2016年5月27日、参院本会議場
―児童養護問題に関心を持ったのは。
1998年に、社会保障制度に関心が強い自民党の根本匠元厚労相、安倍晋三元首相、石原伸晃元幹事長と私の頭文字を取って、派閥横断グループ「NAIS(ナイス)の会」を結成した。グループで全国児童養護施設協議会の会長らに話を聞く機会があり、入所する子どもたちの半数以上が家庭で虐待を受けている事実を知った。その後も機会を見て全国の施設に足を運んだ。
あるとき、児童養護に詳しい人から「施設の子どもたちは、朝、出勤してくる職員を『おはようございます』と迎え入れ、夕方にその背中を見て送り出しているんです」という話を聞き、目からうろこが落ちた。家庭で暮らす子どもたちとは全く逆で、「ぬくもりの連続性」のない生活をしているのが施設の子どもたちだと分かった。
それまで施設を営む側の目線で物事を見ていたことに気付いた。子どもの視点に立って、特定の大人と愛着を育む環境をいかに整備するかという認識に立つきっかけになった。
―児童福祉法の改正を手掛けた。
14~17年に厚労相を務めた。改正前は、家庭の事情で親による養育が難しい場合、児童養護施設や乳児院に預けることが優先されてきた。そこで、まず同法の1条を「全て児童は、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その他の福祉を保障される権利を有する」に変え、子どもが権利の主体であることを明確にした。
そして3条の2に、国と地方公共団体に対し、親元で暮らすことのできない子どもたちが、施設ではなく里親など家庭で優先的に養育されるように、必要な措置を取ることを義務付けることを盛り込んだ。
策定過程では抵抗する人たちが大勢いたが、国会では全会一致で成立した。理念が大転換された瞬間だった。