Times紙は12日「ウクライナ空軍が過去最大規模の航空攻撃を実施して敵防空システムの破壊に成功した」と報じており、この攻撃が原因でロシア軍の防空システムは「サキ空軍基地を狙った長距離ミサイルを迎撃し損ねた」と主張している。
サキ空軍基地まで届く「長距離ミサイル」の正体は謎のままなのでTimes紙の主張は妄想レベルに過ぎないが、、、
170日もロシア軍と戦い続けてきたウクライナ空軍は健在で、Times紙は「8月5日に過去最大規模の航空攻撃を実施、AGM-88HARMを搭載した航空機でロシア軍の防空システムを破壊することに成功した。9日にサキ空軍基地で発生した大爆発は『特殊部隊による攻撃』と匿名のウクライナ軍関係者が証言しているものの爆発後の衛星写真には3つの大きな衝突痕が見られるため、HARMの攻撃で穴が空いたロシア軍の防空システムは基地を狙った長距離ミサイルを迎撃し損ねた」と報じている。
Times紙の報じた内容が真実かどうかは不明だが、ウクライナ軍南部司令部は8月上旬に「ロシア軍の9S19Mを4基破壊した」と発表しており、この9S19MはS-300Vシステムを構成するレーダーなので「HARMを使用した攻撃結果」と言われれば辻褄が合う。
問題は「旧ソ連製の戦闘機や攻撃機に米国製のAGM-88HARMが統合出来るのか?」という点で、HARMをMiG-29やSu-25で使用するためには専用照準ポッド「AN/ASQ-213」の搭載、ポッドが取得したデータをコックピットに転送するための配線作業、取得したデータを表示するHARM Attack DisplayやHARMを携行するためのLAU-118/Aランチャーを追加する必要があり、直ぐにどうにかなる問題ではない。
しかしForbes誌は「HARMをHAS(HARM as Sensor)モードで使用すればAN/ASQ-213は必要がなく、HARM Attack DisplayやLAU-118/Aランチャーの追加だけでHARMを使用できる」と指摘しており、敵レーダーから放射される電波をHARMのシーカーに検出させる方式で運用すれば「機体の改造が最小限で済む=短期間でMiG-29やSu-25にHARMの運用能力(HASモード限定)を付与できる」という意味だ。
ここまでの話を整理してTimes紙の主張を再構成すると米国は「18番目のウクライナ支援パッケージ(今月8日発表)以前のパッケージにウクライナ空軍機から発射可能な対レーダーミサイルが含まれている」と認めており、ウクライナ空軍は機体の改造が最小限で済むHASモードでHARMを運用、ヘルソン地域に配備されたS-300Vシステムの9S19Mを破壊する成功、ウクライナ軍は「敵防空システムの能力が低下している間に長距離ミサイルでサキ空軍基地を攻撃した」という話になる。
まぁサキ空軍基地まで届く「長距離ミサイル」の正体は謎のままで、ウクライナ軍も「サキ空軍基地の爆発には関与していない」と主張しているためTimes紙の主張は妄想レベルに過ぎないが、真実かどうかは別にしてもミリオタとしてはロマンを感じてしまう。
因みに英空軍元パイロットのネザーウッド氏は「数日で壊滅すると予想していたウクライナ空軍が現在も空を飛び、攻撃的な航空作戦を実施しているという事実は彼らの勇気とスキルが優れている証拠で、ウクライナにとってのバトル・オブ・ブリテンだ。1940年に英空軍のパイロットが生き残りをかけて戦ったように、彼らもウクライナの生存をかけて戦い続けている」と述べており、バトル・オブ・ブリテンを引き合いに出してくる辺りが何とも英国人らしい。
追記:ゼレンスキー大統領は軍の将兵に対して「敵に与える情報が少なければ少ないほど戦いは有利になるので作戦や戦況に関わる情報をメディアに漏らすな」と要求、ウクライナ国防省もメディアに「機密に触れる事項を将兵に尋ねないで欲しい。ウクライナ軍の公式発表だけを信頼してほしい」と要請した。
追記:ゼレンスキー大統領は厳戒令と総動員を11月20日まで90日間延長する法案を最高議会に提出した。
:米国が18番目のウクライナ支援パッケージを発表、対レーダーミサイル提供も認める
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