ロシア軍が一時占拠したウクライナの首都キーウ近郊ブチャの集団墓地などで、約450人の遺体が見つかってから3日で半年となる。今も身元が確認できない遺体があり、消息不明の家族を捜す人たちの苦悩は続いている。(ブチャ 上杉洋司、写真も)
【ウクライナ写真特集】奪われた…親も日常も
身元不明なお50遺体
ブチャで、父親とみられる遺体が埋葬された墓の前にたたずむイェフドキメンコさん(9月30日)
(写真:読売新聞)
ブチャ西部の霊園に無数の十字架が並ぶ。その中に、名前がなく数字と記号だけのものがある。発見された遺体は全て霊園に再び埋葬されたが、約50は身元不明のままだからだ。バディム・イェフドキメンコさん(20)は、「320」と記された十字架の前でつぶやいた。「ここに眠るのが父親だと、早くはっきりさせたい」
戦闘が激化した3月初旬以降、ブチャで入院していた父親オレクシーさん(42)と連絡が取れなくなった。母親と西部に逃れ、露軍撤退後の5月にブチャに戻ると、オレクシーさんら5人がガレージで生きたまま燃やされた可能性があると聞かされ、言葉を失った。現場の写真には光沢のある骨が写っていた。警官は「ガソリンをかけるとこうなるのだ」と言った。
オレクシーさんは、ウクライナの航空機製造会社「アントノフ」に勤めるエンジニアだった。機械いじりが得意で、週末は自宅のガレージで工具を握り、自動車整備やバイクの組み立てに明け暮れた。「近所で修理に困っている人がいたら、すぐに助けていた」
オレクシーさんとみられる骨が見つかったガレージは自宅のガレージではない。だが、「ガレージが父親の最期の場所になってしまったことに対しては、複雑な思いだ」と言う。
骨が発見されたガレージからは、オレクシーさんの衣類やクレジットカードも見つかった。ガレージ近くにいた住民は周辺でオレクシーさんを目撃していた。「骨は父だ」と確信を深め、警察にDNA鑑定を依頼したが、4か月が過ぎても結果が出てこない。ブチャで身元確認作業を支援するタラス・ビアゾフチェンコさん(44)は「全員の身元を判明させたい」と意気込むが、鑑定が難しいケースもあるとみられ、厳しい状況だ。