鴨緑江の堤防工事に動員された都市住民。無報酬労働が住民の暮らしをさらに圧迫する。平安北道を2021年7月中旬に中国側から撮影アジアプレス
ミサイル発射に世界の注目が集まっているが、今、北朝鮮の庶民はどんな暮らしをしていて、何を望んでいるのか? また一時感染爆発していた新型コロナウイルスの現況はどうなのか? 国際社会に伝えたことは何か? 北部地域に住む取材パートナーに率直に語ってもらった。(カン・ジウォン/石丸次郎)
【写真特集】 秘密撮影された北朝鮮で最も貧しい農村女性たちの姿(9枚)
通話したのは、北部地域でビジネスをしている取材パートナーで、時期は金正恩政権が11月18日に「火星17型」と見られる長距離弾道ミサイルを発射する直前である。アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
◆医薬品なく老人が多数死亡した
――今、世界的に物価が高騰しています。北朝鮮はどうですか?
私たちは中国の物で暮らしてきました。とにかく中国製品はすべて値上がりしました。一番上がったのは医薬薬と食用油、化学調味料です。最近、それでも新義州(シニジュ)南浦(ナムポ)に入ってきた中国の商品が少し回ってきて、若干下がりました。
――今、薬を個人が売ることができなくなったそうですね?
はい。最近は個人が売ったら無条件に労働鍛錬隊行きです。売れなくしています。 以前は(個人の薬商が)掛け売りもしましたが、今はお金があっても(商人から買えなくなった)。 薬品を手に入れるのも大変です。私の周囲では病気があった人たちがたくさん死にました。薬がなくて治療ができないから。年寄りは下痢なんかでも死んでしまいます。薬を何粒か飲めば生きられるのに、薬がなくて死ぬ人が多いのです。
※「労働鍛錬隊」 社会秩序を乱した、当局の統制に従わなかったと見なされた者、軽微な罪を犯した者を、司法手続きなしで収容して1年以下の強制労働に就かせる「短期強制労働キャンプ」のこと。全国の市・郡にあり安全署(警察)が管理する。
――個人の薬商売を禁じたわけですが、それでは国の薬局には薬はありますか?
どこの薬局にもあるわけではない。
――必要な薬がないと?
ありませんよ。自分たち(保健関係者)で抜いたり、上の連中が抜いたりするからでしょう。あなたにもわかるでしょう? 私たちのような下々の人間は、生きること自体が大変なのです。
――今、食糧がかなり不足しているそうですが、市場に米はありますか?
米はあります。でもお金がない。私たちの収入というのは、中国から商品が入ってきてそれを仕入れて売らないといけないのに、それが全くダメなんです。だから収入は以前と比べてゼロになったと考えればいいです。何もありません。
市場で買いたくても買えない。お金がないから。本当にしんどくて大変です。今は個人が食糧を売ることもできなくしようとしています。
◆コロナは落ち着いたが…
――今、コロナの状態はどうですか? あなたの近隣でコロナにかかった人は何%ぐらいになりますか?
他の所のことはわかりません。
――人民班の基準で見ると。
うちの人民班では(コロナ)にかかっていない人はいませんね。最初はそれがコロナなのかわかりませんでした。ただ喉と頭が痛かったんですが、それがコロナだったんです。皆かかりました。
※地方都市ではPCR検査をほとんどしておらず正確なコロナ陽性判定はできていないと思われる。
――コロナや栄養不足や病気で、この3年間でどれくらいの人が死亡したと思いますか?
1つの人民班で普通2人から5人くらいが死んだと思います。うちの町内では年寄りは大体死にました。周りの人民班でも聞いてみたけれど、平均して1つの人民班で2~3人は死んだようです。
――今もコロナ防疫のために都市を封鎖したり、保健機関で取り締まりをしたりしていますか?
今は以前と随分変わりました。家で3日間くらい隔離せよと言われます。中国製の解熱剤を2日分くれてそれだけです。今も会議では無条件にマスクを着けろと言われます。
※人民班は最末端の行政組織で、概ね20~30世帯程で構成。町役場に相当する洞事務所からの指示を伝達し、住民の動向を細部まで把握して当局に報告する役割を担っている。
◆ワクチンも2回接種
――ワクチンは何回接種しましたか?
9月初旬に1回打ち、10月初めにも1回打ちました。しかしコロナ予防注射だとは知らされませんでした。インフルエンザの注射だと思って打ったんです。
――他の地域でも打ちましたか? 国境地域だけでしょうか?
他の地域はまだ打っていないそうですが、よく分かりません。