
習近平国家主席(古厩正樹撮影)
【ニュースの核心】
先進7カ国首脳会議(広島G7サミット)が19日から開幕する。焦点の1つは中国への対応だが、会議の開幕直前に、G7メンバー国であるカナダが、国会議員とその親族に対する中国の不当な情報収集活動と脅迫を理由に、中国領事に国外退去を求める事件が起きた。
【写真】スペインのNGOが公開した中国の「非公式警察署」の報告書
これに対して、中国もカナダ領事に国外退去を求め、報復合戦になっている。対中包囲網強化をまとめる立場の岸田文雄首相が、中国に甘い対応をすれば、各国から厳しい批判を浴びるのは必至だ。
カナダが中国領事の退去を求めたのは、地元紙「グローブ・アンド・メール」の報道がきっかけだった。同紙は5月1日、情報機関「カナダ安全情報局(CSIS)」の内部情報をもとに、「中国領事が本国の指示に基づいて、中国に批判的な保守党議員と、香港に在住するその親族に関する情報を収集し、親族を脅迫していた」と報じた。
報道を受けて、当のマイケル・チャン議員は、記者会見を開き、「中国は私と私の親族、および議会の他のメンバーを狙っていた。政府は2年前から知っていたのに、何もしていなかった」と、ジャスティン・トルドー政権を厳しく批判した。
このコラムで何度も紹介してきた「中国の非公式警察署」は、カナダのトロントにも3カ所あり、カナダ国内で中国批判が高まっていた。トルドー政権は世論を無視できず、報道から1週間後、中国領事の国外追放を決めた。
これだけ見れば、「トルドー首相はよくやった」ように見える。だが、必ずしも、そうとは言えない。問題が発覚したのは、政府の鈍さに憤りを覚えた関係者による「内部告発」だったからだ。
グローブ・アンド・メールは、告発した「安全保障関係者」と名乗る官僚の手記を掲載した。告発者は「外国勢力がもたらす脅威について、私と同僚は何度も警告したが、幹部たちは動こうとしなかった」と暴露している。トルドー首相は「私に報告が上がっていなかった」と釈明したが、野党は「そんなはずはない」と批判している。
カナダでは、今回に限らず、安全保障関係者を発信源とする内部告発がこの数カ月、相次いでいた。
例えば、3月には告発をもとに、与党議員が「中国外交官と接触し、中国が2018年に拘束したカナダ人2人の釈放を遅らせるように勧めた」と報じられ、離党に追い込まれている。
2人のカナダ人は、中国通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)をカナダが拘束した報復に、中国が拘束した人物たちだ。議員本人は接触を認めつつも、話の内容を否定したが、事実なら、噴飯ものだ。
今回の中国領事追放も、こうした動きの延長線上にある。内部告発が止まらず、政権の対中姿勢に疑問符が付きかねなかったのである。
岸田政権も中国に甘い。
与党議員が「非公式警察署」問題に関与している疑いがあるのに、一向に動こうとしないのが典型だ。このままだと、カナダと同じように内部告発が起きても、おかしくない。自分の尻に火が付いてからでは遅い。岸田政権はカナダを「他山の石」とすべきだ。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。