税務署が徹底監視!法人から個人への「不自然な資産移転」を許さない厳格なスタンス

企業経営者の皆様にとって、法人と個人の間での資金移動は日常的なものですが、税務署はこの動きに対して常に厳格な目を光らせています。その善悪はさておき、税務署は全ての資金移動を確認するという一貫した姿勢を崩していません。本記事では、経営者が知るべき税務署の基本的なスタンスと、彼らが特に問題視する「不自然な資産移転」について具体的に掘り下げていきます。税務調査における税務署の対応事例も交えながら、健全な法人経営と資産管理の重要性を解説します。

税務署が注視する「法人から個人への資産移転」の背景

税務署は、法人から経営者個人へと流れる資金に極めて神経質です。その典型例の一つが、かつて節税商品として利用されていた積立型の生命保険です。これは、法人が支払った保険料の一部が損金として計上され、課税の繰り延べが行われた後、最終的に何らかの形で社長個人に資産が移転されることを意図的に可能にする仕組みでした。

この状況を重く見た税務署は、2019年7月以降に開始された契約から保険料の損金算入を見直し、以前のような節税効果はなくなりました。たとえ合法的な方法であっても、会社のお金を使って蓄えられた資産が社長個人へ移り、会社と個人の双方にメリットが生じるような状況を、税務署は快く思っていないのです。

また、従業員への給与支払いについても同様の視点を持っています。労働の対価として適正に支払われていれば問題ありませんが、例えば家族従業員に対し、その労働内容に見合わない過大な給与を支払うケースなどは、過去に税務署から厳しく追及される時期がありました。これは「家族だから」という理由で不当に多く支払われているのではないか、という疑念が生じるためです。

税務署が徹底監視!法人から個人への「不自然な資産移転」を許さない厳格なスタンス

税務署の監視下での法人・個人の資金移動と節税対策を考えるビジネスパーソン。

つまり、会社から個人へ資産を移転する際には、その「正当な理由」が不可欠であるということです。適切な労働の対価であれば当然認められますが、公平性を欠くような、あるいは金融技術を用いた「マジック」のような形で資金を個人に移転する行為は、税務署の容認するところではありません。

「マジック」のような節税策への厳しい目:過去と現在の税務調査事例

税務署のこのスタンスは、昔から一貫して変わっていません。筆者の税務調査での経験を例に挙げます。かつて損金算入が可能だった積立型生命保険は、法律上は全く問題のない手法でした。それにもかかわらず、税務署の担当官から「先生、これ、一応審理担当にかけますね」と言われたことがあります。これは、税務署内の部署で税務処理に誤りがないか確認を取るという行為で、全国的に否認された例がないことを承知の上で、納税者や税理士に心理的なプレッシャーをかける狙いがありました。結局は「大丈夫でした」とお咎めなしでしたが、待っている間は非常に大きな緊張を強いられました。

この事例が示すように、法人から個人へのお金の移転に対し、税務署は常に目を光らせており、その是非はともかく、全てを詳細に確認するというスタンスは変わっていません。「過大役員報酬」や「過大な退職金」といった形で、どこまでが「過大」であるかを巡る争いが多かったのは、まさにその証拠です。

近年、税務署は役員報酬に関する争点では分が悪いと判断したのか、生命保険に関わる話題に注力する傾向が見られます。保険契約自体を「過大」と咎めることはできないため、彼らは保険金が支払われる際や、契約者変更などで契約形態が変わるタイミングでの税務チェックを厳格化しました。

「低解約返戻金型長期平準保険」が良い例です。これは、法人が保険料を支払い、その一部が損金となり、一定期間は解約返戻金が低く設定されています。この間に社長が低額(解約返戻金相当額)で契約を買い取り、その後一度保険料を支払うと解約返戻金が大幅に跳ね上がる仕組みです。このタイミングで解約すれば、社長個人に多額の資金が入るというものでした。社長個人に入った資金は「一時所得」として所得税の申告対象となります。

このスキームは、現在の税法上は何ら問題がありません。しかし、税務署はこれを「まかりならん」という判断を下したのです。つまり、会社から社長個人へお金を移すのに、たとえ税法上適法であっても、「マジック」のような、あるいは常識から外れた奇をてらった考え方によるものは認めない、というスタンスなのです。ある意味、国税当局の考え方からすれば、このような「マジック」が許されるはずがない、という強い思想がそこには存在すると言えるでしょう。

まとめ:透明性と合理性が、税務署との信頼関係を築く鍵

税務署が法人から個人への資産移転に対し、常に厳格な監視体制を敷いていることは明確です。彼らは、単に法律に則っているかだけでなく、その経済的合理性や社会通念に照らして「不自然ではないか」という視点も重視しています。

経営者としては、「過大」と見なされるリスクを回避し、将来的な税務調査での指摘を防ぐためにも、全ての資金移動には明確で正当な理由付けが必要です。給与や退職金の設定、あるいは保険商品の活用においても、その背景にある「労働の対価」や「事業上の合理性」を明確に示せるよう、日頃から透明性の高い経理処理と適切な情報整理を心がけることが重要です。税務署との健全な信頼関係を築くためにも、常に合理的で誠実な対応が求められます。


参考文献:
清野宏之 著『社長の資産を守る本』(セルバ出版)