地対空ミサイルシステム「パトリオット」=ロイター
【ワシントン=淵上隆悠】米政府当局者は16日、米紙ワシントン・ポストの取材に対し、ウクライナ軍が首都キーウ周辺で展開する米国製の地対空ミサイルシステム「パトリオット」がロシア軍のミサイル攻撃で損傷したことを認めた。ウクライナの迎撃能力を上回る大量のミサイルを撃ち込む「飽和攻撃」で、露軍がパトリオットの破壊を狙ったとの見方が出ている。
パトリオットが4月下旬にウクライナで実戦配備されて以降、初の損傷となる。米紙ニューヨーク・タイムズは16日、複数の米当局者の話として、パトリオットは「あらゆる脅威に対して対処可能だ」と伝え、深刻な損傷ではないことを示唆した。ウクライナにはパトリオットが2セット配備されている。
露国防省は16日、露軍の極超音速ミサイル「キンジャル」がキーウのパトリオットを直撃したと発表していた。これに対し、ウクライナ軍参謀本部は、露軍が16日未明に発射したキンジャル6発や地対空ミサイル「S400」を含む計25発を全て迎撃したと発表していた。
ただ、キーウのウクライナ軍関係者は16日、「攻撃時間は20分余りで、前例のない集中度だった」とSNSで明らかにした。米国の専門家はワシントン・ポストに「ロシアは複数の軌道を描く様々なミサイルを投入し、洗練された複雑な攻撃を行った」と指摘した。
露軍は4日にも、キンジャルなどを使ってパトリオットを標的にしたとみられる攻撃を行っていた。ウクライナが計画する大規模な反転攻勢を遅らせるため、防空能力の低下を狙って再び攻撃する可能性がある。
パトリオットはミサイルや航空機など複数の飛来物への同時対処が可能で、「世界で最も高性能な防空能力の一つ」(米国防総省)とされる。日本にも配備されているが、飽和攻撃への対応が課題とされている。