ロシアのプーチン大統領(古厩正樹撮影)
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の「裸の王様」ぶりが目立ってきている。ウクライナの反転攻勢に対し防戦一方のロシア軍だが、大統領が強調する「戦果」は実態と大きく異なると指摘され、周囲から実態を誇張した情報が上申されているとの観測も根強い。情報操作にたけているロシアだが、プーチン氏自身もニセ情報に踊らされているのか。
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プーチン氏は21日、モスクワにある軍大学校の卒業生を前に演説した。そこで国営テレビの質問に、ウクライナの反攻は「小康状態」だと答え、「われわれの兵士は245両の敵戦車と約678両の多様なタイプの装甲車両を撃破した」と語った。
これに対し、露独立系メディア「メドゥーザ」は、「ウクライナ軍の旅団には、245両もの戦車はない」といぶかしんだのだ。
プーチン氏は16日には、サンクトペテルブルクで開かれた会合での講演で、ウクライナの首都キーウ近郊にある米軍供与の地対空ミサイルシステム「パトリオット」を「5基破壊した」と述べたと複数のメディアが報じた。
ただ、ウクライナに配備されているのは2基とされており、「何を意味しているのか明らかではない」(17日付メドゥーザ)という。ウクライナのゼレンスキー大統領に至っては、18日に「パトリオットは1つも破壊されていない」と発信した。
筑波大学の中村逸郎名誉教授は「プーチン氏はロシア軍の現状にいらだっており、側近たちは真実を伝えて攻撃されることを恐れているのではないか」と指摘する。
フェイク情報に踊らされているのは、プーチン氏自身の情報管理にも問題がありそうだ。中村氏は「ハッキングや情報漏洩(ろうえい)を恐れ、ネットにもアクセスせず携帯電話も持っていないといわれる。情報は国営第1チャンネルか側近の報告から得るしかないようだ」という。
プーチン氏に正確な情報が届いていないという疑念は以前からあり、官僚や新興財閥(オリガルヒ)、治安当局などの秘密を暴く「VChK―OGPU」というテレグラムチャンネルでも告発された。
4日の投稿では、プーチン氏は戦争の実情を伝えられるといらつき、「西側のプロパガンダ」とみなすという関係者の話を伝えた。「悪いニュースを聞きたがらない」ため、「成功」を報告した人だけが大統領に常にアクセスできるとも暴露した。
プーチン氏の「裸の王様」ぶりは西側諸国でも分析されてきた。
AP通信は3月、米情報当局の話として、プーチン氏はウクライナでのロシア軍の不振について顧問から誤った情報を得ていると報じた。経済制裁でどれほど疲弊しているかについても惑わされているという。
〝電波の届かないところにいる〟プーチン氏。今後も情報環境が改善される見通しは薄いという。前出の中村氏は「秋の統一地方選や来年の大統領選を控え、ロシア国内は『政治の季節』に入る。政権内部でも偽情報でプーチン氏の指導力を低下させて後継を狙う人も現れかねない」との見方を示した。