[世界秩序の行方]第3部 国際機関<4>

ロシア軍の攻撃で息子を失った女性(中央)から当時の状況を聞き取るNGOのスタッフら(6月29日、ウクライナ・キーウ近郊で)=本紙通信員撮影
ウクライナの首都キーウの北東約40キロにある農村を6月末、NGOスタッフ2人が訪ねた。ロシア軍による残虐行為の実態を調査するのが目的だった。
村民のナディア・ヘラシメンコさん(69)が重い口を開いた。村が戦車に包囲されたのはロシアの全面侵攻7日後の昨年3月3日だった。自宅に迫った露軍は機関銃を乱射。外で喫煙中の息子が撃たれて死亡し、別の息子も重傷を負った。家に踏み込んだ露兵は急襲理由を「上官が殺された腹いせだ」と説明したという。
聞き取りを行ったのはウクライナのNGO「市民自由センター」(CCL)。露軍撤退から1年以上たっても、調査の手が回っていない村がある。将来の刑事訴追に向けて、CCLは現場などで集めた情報のデータベースを原則として当局と共有している。
スタッフのナタリア・ヤシュチュクさん(45)は「作業はなかなか進まないが、将来の訴追のため今から一つ一つこなしていくことが重要だ」と語る。
ウクライナ当局が把握している露軍の戦争犯罪は、7月13日現在で9万7907件。膨大な犯罪の責任追及に向け、国際紛争の非人道的行為を捜査する国際刑事裁判所(ICC)、外国での犯罪を国内で処罰できるドイツやフランスの政府やNGOなどが支援に乗り出している。
ドイツに本部を置くNGO「欧州憲法人権センター」は、ウクライナで罪に問えない「露兵に対する監督責任」を国際法廷に持ち込むため、裁判所に提出する証拠作成を助言している。担当者は「より高位の人物への逮捕状発行にこぎ着けることが目標」と話す。
「ウラジーミルが裁かれる姿を見たい」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5月、オランダ・ハーグにあるICCの本部を訪れた際の演説でプーチン露大統領をファーストネームで呼び、ロシアの侵略を裁く国際法廷の設置を訴えた。
ICCは戦争指導者らの刑事責任を追及する常設の国際刑事司法機構だ。設置条約に批准した日本や英国、フランス、ドイツなどの123か国・地域が加盟する。3月には、ウクライナの子供たちをロシアに連れ去った戦争犯罪に関与したとして、プーチン氏に逮捕状を出した。