外国人労働者を大量に迎え入れることで、日本の社会はどこに向かおうとしているのか。これは参院選で与野党が論じ合うべき、国の根幹に関わる重要な問題である。
それにもかかわらず実のある論戦を交わした様子がほとんどみられないのはどうしたことか。
4月に外国人労働者の受け入れ拡大を図る改正入管法が施行され、事実上の「移民」解禁に踏み出したばかりだ。各党が議論を深める絶好の機会を生かそうとしないのが残念でならない。
与野党を問わず外国人との「共生」を公約に掲げる党は多い。だが、そこがうまくいかないから欧米では移民が大きな社会問題になっているのだ。「共生」を唱えるだけでは不安を拭えない。将来の国のあり様(よう)について、具体的な青写真を明確にすべきである。
自民党は外国人材の受け入れに前向きだ。人手不足に悩む中小企業などが念頭にあるのだろう。生産性向上や人材確保の取り組みを進めても「なお人手確保が困難な分野」で適正な受け入れをするとした。公明党は介護分野で外国人材を確保するといい、災害時の避難情報が外国人にも着実に伝わる仕組みの構築を打ち出した。
立憲民主党は、外国人労働者の権利擁護と日本語教育の拡充などで多文化共生を目指すという。共産党は人権侵害の温床として技能実習制度の廃止を主張する。国民民主党は家族帯同などの人権的な配慮を求めた。日本維新の会はマイナンバーカードを利用した在留管理を盛り込んだ。社民党は、新しい在留資格である特定技能1号の見直しを訴えている。
改正入管法による新制度は、受け入れ側の態勢などに問題を抱えたまま始まった。制度の不備を改めるべきはもちろんだが、肝心の日本の将来像については、正面からの議論を避けているのではないか。社会がどんな変革を迫られているのかが見えないのである。
目先の人手不足を解消するといっても、勤労世代は今後25年間で1500万人近くも減る。政府は5年間で最大34万5150人を受け入れるというが、なし崩し的に人数を増やす事態とはならないのか。そうなれば社会の混乱は、いや応なく高まろう。
求められるのは、長期的な視座に立って「移民」のあり方を見つめ直すことである。与野党ともその点を銘記してもらいたい。