伝統的な対称戦にこだわる台湾、役にたたないレガシー資産への投資を優先

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台湾メディアは「ランド研究所が台湾の防衛計画が時代遅れだと指摘している。ヘリテージ財団の研究員も台湾の防衛準備は壊滅的な評価だと述べており、米国は中国阻止にあらゆる手を尽くすべきだが、その前に台湾はその役割りを果たさなければならない」と報じている。

米軍がイラク戦争で見せた航空作戦はもう忘れるべきで、中国相手に絶対的な制空権の確保は困難

米シンクタンクのランド研究所は「もはや冷戦終結後に採用された米国の防衛戦略は破綻している。この戦略の本質は遠征力であり、米国の利益を脅かす敵が現れれば『圧倒的な通常戦力』を集結させて当該地域に投射し、敵に米国の意思を受け入れることを強制することで決定的な勝利を得ることを意味する。この戦略はあらゆる領域で米国の軍事力が敵の軍事力を凌駕していることを前提にしていたが、この優位性は失われている。中国に対する優位性は完全に失われ、他の潜在的な敵国に対しても重要な優位性が部分的に失われている。この優位性は残念ながらもう戻ってこない」と指摘した。

伝統的な対称戦にこだわる台湾、役にたたないレガシー資産への投資を優先

出典:RAND Corporation

25日に発表された240ページに渡るランド研究所のレポート(Inflection Point)は大変興味深く、これを数千文字程度に要約するのは不可能なため「台湾有事に関する部分」のみに限定すると以下のようになる。

米国の防衛戦略=遠征力は「戦争前に大規模な部隊を編成して展開させる時間的余裕がある」「作戦地域に対する兵站は敵の妨害を受けない」「米空軍の航空戦力は作戦空域で永続的な制空権を確保できる」「宇宙領域は米国の聖域であり続ける」「米国は戦争を開始する場所とタイミングを選択できる」「戦争は数年ではなく数週間もしくは数ヶ月間を前提にしている」「米軍は敵国に決定的な技術的優位を持っている」「米軍は通常戦力による戦争に勝利できる」「米国は戦争による本土攻撃を受けない」という要素で構成されているが、もはや遠征力の優位性は中国やロシアに通用しない。

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出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Kevin Long

仮に米国と中国の中間地点に地理的条件の優劣が存在しない戦場があって、そこで同数のF-35とJ-20が機体のスペックとパイロットの腕を競い合うという類の話なら別だが、米国はイラクとの戦争に必要な戦力を戦闘地域に集積するのに約5ヶ月間もかかっており、中国は地理的なアドバンテージを活かして「米軍の準備が整う前」に軍事力を行使して大きな成果を台湾で確保するだろう。

さらに中国が保有するサイバー兵器や極超音速兵器は台湾周辺に展開しようとする米軍の兵站や部隊を攻撃して混乱と脅威をもたらすだろうし、何度も試みたウォーゲームで米軍は中国の高度な防空システムを制圧するのに失敗しているため、台湾周辺での戦いはイラク戦争のように絶対的な制空権を確保するのは難しく、根本的に中国本土に近くA2/AD戦略の脅威下にある台湾を舞台にした戦いは「圧倒的に中国優位な戦場環境」で、これを遠征力に基づいた防衛戦略で対処するのは不可能な話なのだ。

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出典:EGLIN AIR FORCE BASE

さらに問題なのは宇宙資産が提供する戦場認識力、ナビゲーション、通信、位置情報がなければ米軍の作戦能力は著しく低下する点で、これを中国軍が衛星攻撃兵器で狙わないはずがなく、圧倒的でなくなった米軍の軍事力で中国に対抗するためランド研究所は「部隊の前方配備」「同盟国の活用」「生存性の高い移動式プラットフォームによる接近拒否」「滑走路に依存しない無人機」が重要だと主張しているが、特に興味深いのはセンシング面での無人機活用だろう。

持続力が高いセンシングを構築にするには幾つかの方法があるが、もはや高価で性能が高い少数のプラットフォームに頼るのはリスクが高く、ランド研究所は「低コストで大量に調達可能な無人機で台湾海峡にグリッドセンサーを構築するのがもっとも持続力が高い」と主張しており、敵は地対空ミサイルや空対空ミサイルで無人機を破壊してグリッドセンサーを無力化しようと試みるだろうが「破壊を上回るスピードで安価な無人機を補充すればいい」と述べてる。

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つまりステルス性能が高い無人機はセンシングの一部に成りえるが、テンポの早い戦争において量を確保できないプラットフォームは「持続力が高いセンシング」とは言えず、質ではなく量を揃えられる無人機こそが宇宙資産をカバーするセンシングになるという意味だ。

他にもランド研究所は興味深い指摘(バルト三国に対するロシアの軍事侵攻など)を幾つも披露しているものの、台湾メディアは「ランド研究所が台湾の防衛計画が時代遅れだと指摘している。ヘリテージ財団のアレックス・ベレス・グリーン氏も台湾の防衛準備は壊滅的な評価だと述べており、米国は中国を阻止するためにあらゆる手を尽くすべきだが、その前に台湾はその役割りを果たさなければならない指摘した」と報じている。

伝統的な対称戦にこだわる台湾、役にたたないレガシー資産への投資を優先

出典:中華民國總統府 / CC BY 2.0

英国のFinancial Times紙も今年1月「台湾軍参謀総長を務めていた李喜明元大将(2019年に退役)は中国軍相手に空軍力や海軍力で対抗することを放棄し、侵攻してきた敵の脆弱な部分を叩く能力の構築=総合防衛構想を立案、これをベースに台湾軍は対称戦略から非対称戦略に転換するはずだったのだが、李大将が退役すると非対称戦略への転換は白紙化されてしまった」と報じて注目を集めたことがある。

FT紙の取材に応じた李元大将は「分散的な指揮権限の下でゲリラ戦に特化した領土防衛軍の創設を訴えてきたが、今回の計画を見る限り非対称戦略の概念を採用したくないのがよく分かる。これはウクライナやバルト三国の例を受け入れたくないという意思の現れだ」と指摘、別の退役将官も「現在の台湾軍は伝統的な概念=2008年以前の状態(兵力削減前)に回帰しているだけで、新しい戦略を国民に明確に伝える努力もなく盲目的に働き続けているに過ぎない」と政府や軍を批判。

伝統的な対称戦にこだわる台湾、役にたたないレガシー資産への投資を優先

出典:Global Aviation Travels Photography/CC BY 2.0

この問題に精通した関係者は「蔡総統が徴兵改革を発表したタイミングで台湾を訪問した米国代表団も同様の欠陥を把握、台湾軍は戦術レベルにおいて熟練しているものの戦略的思考に欠けている」と述べたらしく、台湾メディアもFT紙の報道を引用して「台湾軍は旧概念に基いて動いている」と報じていたが、ランド研究所もレポートの中で「過去15年間の間に何人ものアナリストが台湾の防衛計画を改善するため多くの緊急勧告を行ってきたが、この危機感は台湾が伝統的な概念の戦略を優先しているためで、中国相手に役に立ちそうもないレガシー資産への投資を優先しているためだ」と指摘した。

資金の無駄遣いだと大きく取り上げているのが「制空権は戦闘機によって確保するもの」という伝統的で対称的な戦略に基づき調達されているF-16Vで、この防衛資産は「中国軍相手に対する生存性」も「制空権を確保するという目的」にも効果が低く、SLAM-ER、JSOW、HARMといった兵器調達も運搬するプラットフォーム=F-16Vが使用できなければ使い道がない。

伝統的な対称戦にこだわる台湾、役にたたないレガシー資産への投資を優先

出典:總統府/CC BY 2.0 沱江級コルベット

12隻も建造予定の沱江級コルベットは「戦争が始まればまず生き残れない」と、国産潜水艦も「生存性は高いもののプラットフォーム自体の攻撃能力(弾庫容量に対するプラットフォームの調達コストと運用コスト)は限定的だ」と指摘しており、このようなレガシー資産に投資する資金があるなら生存性が高い移動式の地上レーダー、地対空ミサイル、地対地ミサイル、地対艦ミサイル、機雷の調達・拡充を進めるべきだという意味だ。

さらに戦術通信に対する台湾の投資も未知数で、ランド研究所は「台湾軍には国産システムと海外システムが混在しているため全ての能力を統合する努力は相当なものになる」と予想しているのが興味深い。

伝統的な対称戦にこだわる台湾、役にたたないレガシー資産への投資を優先

出典:ロッキード・マーティン LRASM

以上のことから大雑把に導き出せる結論は「米軍でさえ中国軍相手にイラク戦争の再現=制空権を確保→空からの攻撃で地上戦(もしくは海上戦)を圧倒的に優位に進めるという戦い方は不可能」で、ウクライナ軍とロシア軍の間で成立した接近拒否は米軍と中国軍の間でも成立する可能性が高く、この戦いの勝敗を分けるのは航空戦力ではなく長距離攻撃能力で、これを活かすためには持続力が高いセンシング能力を構築しておかなければならず、この答えは安価な無人機の大量投入だという話だ。

ある米ディフェンスメディアは「中国海軍の遼寧や山東は米海軍のニミッツ級やフォード級と比較して航空機の運用能力が劣るので、中国海軍は米海軍に肩を並べる存在ではないとロイターは過小評価しているが、これは遼寧とニミッツ級、もしくは山東とフォード級のスペックを比較した場合の話だ。台湾海峡で両軍が衝突する際、中国海軍の遼寧も山東も、米海軍のニミッツ級もフォード級も巨大な戦力群の一部でしかなく、中国本土に近い海域で運用されれば、強力なA2/AD戦略のバックアップを受けるため戦場にもたらす影響力がニミッツ級やフォード級よりも劣るという意味ではない」と指摘していたことがある。

伝統的な対称戦にこだわる台湾、役にたたないレガシー資産への投資を優先

出典:rhk111 / public domain

管理人を含む一般的なミリオタは兵器のスペックに注目し、その優劣だけで戦争や戦場の優劣を予想しがちだが、どうやら戦争というものはそんな簡単な話ではないらしい。

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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin

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