東部の激戦地バフムートの近くで迫撃砲発射の準備をするウクライナ軍の兵士
(CNN) 2カ月間の過酷な戦闘を経て、ロシアに対抗するウクライナ軍の反転攻勢にはようやく一定程度の進展の兆しが見えつつある。
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ウクライナ軍は昨年2月のロシアによる侵攻で失った領土を徐々に奪還している。先週は水上仕様の無人艇攻撃で重要なロシアの軍艦を航行不能にした。
ただここへ来て米国人の過半数、そして相当数の共和党議員がこの戦いを見捨てたがっている。CNNが米調査機関SSRSに委託して実施した新たな世論調査でそれが明らかになった。まずい考えが最悪の時期に勢いを得ることになるとは、レーガンの政党も落ちたものだ。
4日に公表されたCNNの世論調査では全回答者の55%が、連邦議会はウクライナ政府への新たな軍事支援の承認を止めるべきだと答えた。筆者の視点からはさらに悪いことに、共和党の方が民主党よりも格段に支援停止を擁護しがちだという恥ずべき事実も明らかになった。
調査によると、共和党の71%がこれ以上の支援を送るのは止めるべきだと回答。民主党では62%がウクライナへの一段の資金援助に賛成している。
筆者の立場からすれば、世論調査の結果が明らかにしたのは、自身の所属する党の多くが友人に背を向けようとしているということだ。命がけで民主主義のために戦っている友人に対して、彼らは背を向けるつもりでいる。ウクライナ軍がロシア軍を戦争初期の占領地から追い出し始めたまさにそのタイミングで。それほど勇敢に戦っている軍隊と国家にとって、これ以上士気を失わせる話もなかなかない。彼らは18カ月近くにわたり戦い、米国の支援を頼みにしている。
ここでは2つの要因が絡んでいるとみられる。1つ目はウクライナ側の戦場での進展が遅いことだ。ウクライナ政府による夏の反転攻勢で、同軍が広大な範囲の領土を奪還するだろうとの期待は、ロシア軍の防御設備という現実の前に押しつぶされた。「衝撃と畏怖(いふ)(訳注:2003年のイラク戦争で米軍が実施した軍事作戦を指す言葉)」に代わって我々が目の当たりにしているのは、第1次世界大戦の塹壕(ざんごう)戦だ。
共和党の感情をかき立てる2つ目の要因は、「トランプ効果」と呼べるかもしれない。目下、ホワイトハウスへの復帰を目指す選挙活動の中で、前大統領は党の意識を極めて強力に支配しているため、本人が抱くウクライナ支援を巡る疑念は、共和党全体に多大な影響をもたらす。
トランプ氏以前の共和党はそんな党ではなかった。戦略的パートナー国が民主主義を勝ち取ろうとする戦いを見捨て、ロシアのプーチン大統領に潜在的な勝利を手渡したりはしなかった。我々はかつて冷戦の戦士として、ソビエト連邦の崩壊を実現している。
かねてプーチン氏を受け入れているトランプ氏と共に、一部の共和党員は米国が果たすべき民主主義と自由の防波堤としての役割を忘れつつある。こうした共和党員はそれに代わって、悲惨な孤立主義を選択している。これはヒトラーとの戦いに加わるのに反対した者たちの考えだ。当時は「ラジオ司祭」と呼ばれたチャールズ・カフリンが、行動しない人々の間で強い影響力を誇った。現在の彼らはFOXニュースに慰めを見出す。
トランプ氏が自らの立場を構築する手法は、政策に対する自身のけちな取り組みに典型的に表れている。同氏は戦争資金援助の停止をちらつかせることで、連邦政府による調査から資料を入手する考えを示した。この調査はバイデン大統領の息子、ハンター氏のビジネス取り引きを対象にしている。米国は「ただ一つの追加支援の承認も拒否するべきだ。我が国の兵器の備蓄は枯渇している」。トランプ氏は先月そう主張した。しかしこの措置には、連邦捜査局(FBI)、司法省、内国歳入庁(IRS)が議会共和党によるバイデン一家の調査に対して証拠を手渡すまでという条件を付けた。同氏はまた、米国はウクライナ支援よりも学校の安全を優先するべきだとも語っている。
学校の安全やハンター氏をどうにかしてウクライナ支援に結びつけようとする考えは、一見馬鹿げている。しかしこうした意見表明の中で前大統領が強調した2つの重要な問題は、支持者の注意を引くものとみられる。
保守派の共和党員である筆者の目から見て際立っているのは、CNNの世論調査が示すように、民主党がウクライナを強く後押ししていることだ。それは左派が米軍をより前向きに捉えつつある長期的な傾向を反映する。
2022年、米スワースモア大学の政治学教授、ドミニク・ティアニー氏はアトランティック誌でこう指摘した。トランプ政権の間に民主党はより好意的な見解を軍隊に対して取り入れたが、これは軍隊が法の支配と伝統を支持していたからだと。ティアニー氏の主張は推論だが、筆者はどちらかと言えばこれに同意する。
確かにCNNの世論調査が示唆するところによれば、民主党の相当程度が地政学上の危機に対する軍事的解決を支持している。
筆者は元連邦議会議員として、米国の海外での義務を巡る問題に注力した。また空軍州兵のパイロットとして、イラクとアフガニスタンでの戦争に従軍した。そうした中でどのように米国が世界の安定化を支援するのかを目の当たりにしてきた。それは孤立主義者たちの理解の及ばない手法だ。
条約や対外支援、貿易を通じて、我が国は他国が堅固かつ豊かな社会を展開する手助けをする。我が国の直接的な軍事支援は、とりわけアフガニスタンで重要だった。同国では我が国の不在により、抑圧的なイスラム主義勢力タリバンが再び実権を握った。我が国の撤退は、アフガニスタンの人々と世界に悪い結果をもたらした。
24年の大統領選でトランプ氏と共和党の指名獲得を争う最大のライバルであるフロリダ州のデサンティス知事は3月、米国にとっての重大な国益はウクライナには存在せず、戦争は「領土紛争」だと主張した。本人は領土紛争についてのコメントを撤回したものの、筆者の見たところ、共和党の有権者は同氏が戦争への資金援助に懐疑的だと理解している。
この立ち位置のおかげで、デサンティス氏は不満の声を浴びずに済むかもしれない。トランプ氏のもう一人のライバル、ペンス前副大統領は先月、アイオワ州で開かれた保守派の集会でウクライナ支援を支持したところブーイングを受けた。前ニュージャージー州知事のクリス・クリスティー氏は4日、ウクライナの首都キーウで戦争への支持を表明したが、それが誰かの耳に届いたのかどうかは判然としない。
ウクライナ支援に正式に異議を唱えることは、議会でこれ以上ない重要性を持つ。それは実際の援助の流れに一定の役割を果たす。7月、下院の共和党議員70人がウクライナ支援の完全打ち切りに賛成票を投じた。この数字は政策を転換するのに不十分だったが、支援に反対したのは共和党でも極端に右寄りの議員らだ。予備選では、彼らの役割が非常に大きくものを言う。こうした勢力の存在が意味するように、候補者らに対しては反支援を訴える集団に加わるよう圧力がかかっている。
民主主義を守るための戦いを信じない我が党の一般党員の姿に、筆者は保守主義が消え去りつつある事例を改めて目の当たりにする。筆者がかつて認識し、米国が信頼を置いていた保守主義は、今まさに消滅しようとしている。
専制に対し断固として立ち向かったレーガンの政党はもはや跡形もない。今その地位を占めようとしている共和党は、世界が米国の指導力を求めても反応を示さず、一国家の苦難にも関心がないように見える。本来なら我々は、戦いが終わるまでその国を助けて然(しか)るべきなのだが。
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アダム・キンジンガー氏はCNNの政治担当シニアコメンテーターで、イリノイ州選出の元連邦議会議員。下院外交委員会の委員を10年間務めた。また空軍州兵の中佐、パイロットでもある。記事の内容は同氏個人の見解です。