■有志連合への参加を試金石に
憲政史上最長の首相在任を視野に入れる安倍晋三首相は、有権者から引き続き政権運営を託された。第25回参院選で与党の自民、公明両党が過半数を得て、国会での安定基盤を確保した。
1人区で統一候補を立てて共闘した野党側は、外交・安全保障や経済、社会保障で、明確な対立軸をすえて具体的政策を競うことが十分にはできなかった。
与野党の憲法改正に前向きな勢力は、改選、非改選合わせ3分の2に達しなかった。
安倍首相は21日夜、民放テレビ番組で憲法改正について「改選議席の過半数を得た。しっかり議論していけという国民の声をいただいた。国会で議論が進んでいくことを期待したい」と語った。
≪憲法改正を説くときだ≫
そうであるならば、首相と自民党は、9条や緊急事態条項などの改正実現の必要性を国会の内外でこれまで以上に説くべきだ。国会と世論における多数を形成する努力をはらう必要がある。
安倍首相の自民党総裁任期は令和3年9月である。衆院議員の任期満了は同年10月だ。2年間などあっという間だ。
政権運営を託されたからといって一息ついている暇はない。単なる「政権管理者」に堕してはならない。憲法改正や外交・安全保障、経済、社会保障などで、日本と国民のため「大きな政治」を前進させてもらいたい。
タンカー護衛の有志連合への参加問題もその典型である。エネルギー安全保障が脅かされている現実が突きつけられた。
6月には、中東・ホルムズ海峡で日本などのタンカーが何者かに攻撃された。7月には英国のタンカーがイラン革命防衛隊に拿捕(だほ)された。
日本は原油調達の8割を中東に依存している。日本と中国を念頭にトランプ米大統領は「自国の船は自国で守るべきだ」と指摘した。米国は、有志連合結成を呼びかけている。
安定したエネルギー輸入は、経済と国民の暮らしに不可欠だ。中東海域でのタンカーの護衛は、日本自身の問題である。
どう取り組むかが参院選の主要争点となるべきだったが、残念なことに与野党とも具体的対応をほとんど論じなかった。だが、政府与党にとって待ったなしの課題である。参加を決断すべきだ。
中国や北朝鮮の脅威にどう備えるか、米中「新冷戦」や拉致問題への対応など、日本の舵(かじ)取りはいよいよ難しさを増している。
10、11月には、天皇陛下の即位の礼、大嘗(だいじょう)祭がある。万全の態勢をとってほしい。皇位の安定継承策の検討も進めてもらいたい。
10月の消費税率10%への引き上げは、与野党で公約が明確に異なった。凍結や中止を訴えた野党がこれを追い風にできなかったのは、増税を先送りしたままでは、社会保障制度の持続可能性や、その土台となる財政が立ちゆかなくなるという、世論の現実的な判断があったためだろう。
≪社会保障の改革着手を≫
政権は参院選を意識し、社会保障制度の抜本改革の議論を避けてきた。年金問題が浮上すると、世論の反発を恐れて自助努力の議論を封印した。年金財政を点検する財政検証もまだ出していない。
だが、負担増や給付減など痛みを伴う改革から目を背けていては将来不安を解消できない。少子高齢化や人口減は国難であり、政権基盤が安定している今こそ抜本改革を断行すべきだ。
経済状況も予断を許さない。消費税増税が景気に及ぼす影響はもちろん、米中貿易摩擦など海外経済のリスクにも目配りして適切に政策を講じなくてはならない。
野党は、有効なアベノミクスの代替案を示せなかったが、家計に力点を置く視点には頷(うなず)ける部分もある。企業業績や雇用は改善したが、その恩恵が暮らしに行き渡っているとは言い難いからだ。
成長分野を育成し、労働生産性を高める取り組みが急務である。規制改革などで後押しし、潜在的な成長力を高める環境の整備が問われている。
日米貿易交渉がいよいよ本格化する。選挙が終わったからといって国益を損なう安易な譲歩は許されない。世界は日本が自由貿易の旗手たり得るのかを注視している。米国に独善的な振る舞いを正すよう促す。これができてこその日米同盟だと銘記したい。