27日発表された公的年金の財政検証結果は、経済成長と労働参加が進むケースでは5年前の前回同様、給付水準を表す代表的な指標の所得代替率は政府が公約した50%を維持できるとした。ただ、それには持続的な経済成長や、高齢者や女性などの労働参加拡大が欠かせない。年金を含む社会保障費は年々増えており、持続可能な社会保障制度の構築は国の財政の命運を握る。
厚生労働省によると、今回は前回と比べ、労働参加は進むものの、経済見通しの前提は控えめに設定したとしている。令和11(2029)年度以降の長期で、技術進歩や効率化などを反映する「全要素生産性」は、経済成長と労働参加が進む3ケースで1・3~0・9%と、前回(1・8~1・0%)より低くした。
ただ、足元の全要素生産性は0・3%程度と低水準だ。生産性の向上は民間企業の努力だけでなく、成長戦略や規制改革といった政府の取り組みが成果を生むことも欠かせない。
生産性が高まらなければ賃金も上がらない。3ケースでは実質賃金上昇率の前提も1・6~1・1%と、前回(2・3~1・3%)から抑えたが、平成26~29年度は平均でマイナス0・6%にとどまっている。
経済成長や労働参加が進まない場合は所得代替率が50%を下回るとしており、安定成長と就業拡大が年金の水準確保の大前提だ。
今回は、厚生年金の適用をさらに広げた場合の試算も示し、基礎年金を中心に給付水準の確保にプラスに働くとした。これについて大和総研の神田慶司シニアエコノミストは「一人一人の基礎年金の水準が上がることになるが、基礎年金給付費に対する国庫負担割合は2分の1に引き上げられており、公費投入額が大きくなる」と指摘する。
神田氏は「基礎年金を厚くするのは個人には重要だが、国庫負担は増える。そのための財源をどう確保するのか、制度改革も含めた議論が必要だ」と話す。
また政府は、在職老齢年金制度について、高齢者の働く意欲をそぐとの批判を踏まえ、廃止も含めてあり方を見直す方針だが、実際に廃止するとなれば代替財源の確保が課題となる。(森田晶宏)