【香港=天野健作】東京が国際金融都市として、「三大国際金融センター」の奪還を狙っている。小池百合子都知事が中国訪問中の28日夜、大規模なデモが続く香港のホテルに、地域の企業経営者や投資家らを集め「東京へ投資を」というセミナーが開かれた。
セミナーには、東京でのビジネスに関心のある経営者らを中心に約80人が参加。小池知事は現地訪問こそキャンセルしたが、「国際金融都市としての地位の向上を目指し取り組みを強化している」とのビデオメッセージを寄せた。
知事の代わりに米津(よなづ)雅史・都特区推進担当部長が講演し「ぜひ東京で投資を検討しませんか。東京には、多くのヒト、モノ、資本、情報が集積している。都内でビジネスを行おうとする外国企業にとっても大きなメリットだ」とアピール。都は香港に海外誘致窓口を置き、職員をしばらく駐在させるという。
参加した香港のベンチャー企業経営者、盧文聡氏(38)は「東京には強い関心を持っており、日本で上場できたらとも考えている。ただ香港の政治的不安定は一時的なものだと思う。大勢の香港の経営者が離れ、東京へ進出するとは考えていない」と話す。
東京はバブル経済もあり、1980年代末、ニューヨーク、ロンドンに並んで「三大国際金融センター」と呼ばれていたが、その後、国際金融の相対的な地位が低下。英国のシンクタンク「Z/Yenグループ」が、競争力やビジネス環境などを評価して発表している国際金融都市ランキングでは昨年6位だった。一方、セミナーが行われた香港は3位だ。
小池知事は「アジアの首位を目指す」と公言するが、香港とシンガポールの後塵(こうじん)を拝し、昨年は上海にも抜かれた。
都が平成29年11月に公表した構想でも国際金融都市としての地位を取り戻すため「ラストチャンスとの危機感を持つ」と記載した。構想が実現すれば経済波及効果は約16兆円に達するという。
中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正問題をめぐって大規模デモが繰り広げられている香港では、日本を含む約30カ国・地域が渡航の警戒レベルを上げた。香港政府の発表では、8月上旬の香港への旅行者は前年同期比3割減、ホテルの客室稼働率も最大5割に落ち込んでいる。
英国の欧州連合(EU)離脱をめぐって、ロンドンの地位低下も避けられない。
ただ、東京にとって不利なのは、法人税率が香港やシンガポールなどより高いことにある。東京市場そのものを海外に売り込む機関もこれまでなく、この6月に金融機関など30社・団体が参加する「東京国際金融機構」が発足したばかり。
さらにビジネス環境を整備するための「言語の壁」も大きな課題だ。都が策定を進めている2040年までの長期計画案では、ビジネス公用語を英語にすることなどが上がっている。