マッタラ空港周辺:開発によるゾウとの軋轢、住民を苦しめる現実

スリランカ南東部のマッタラ・ラジャパクサ国際空港。その立派な幹線道路を走っていると、ガードレールの先に野生ゾウの群れに遭遇しました。子ゾウを守るように草をはむ姿は、悠然としていますが、その裏には深刻な問題が潜んでいます。

開発によって追われる野生動物たち

スリランカゾウは、アジアゾウの中でも最大級。かつては密猟などで数が激減しましたが、保護活動が功を奏し、現在は約7,000頭にまで回復しました。しかし、皮肉なことに、今度は開発による生息地の減少が深刻化し、人間との軋轢を生んでいます。

マッタラ空港もその一因となっています。中国からの巨額融資で建設されたものの、実際にはほとんど利用されておらず、「世界で最も空いている空港」と揶揄されることも。スリランカは巨額債務を抱え、2022年には事実上のデフォルトに陥りました。

ゾウ被害の深刻化と住民の不安

空港近くの商店の店主によると、空港の開業以降、ゾウによる被害が後を絶ちません。民家に侵入しようとするゾウ、農作物を荒らすゾウ…つい先月も、ゾウに襲われて亡くなった主婦がいたそうです。

「空港や道路、港の開発で、すみかを追われたゾウたちが、どこへ行けばいいのかわからず、人間の生活圏に迷い込んでくるんです。毎月のように人が襲われ、農作物も被害を受けています」と店主は言います。

実際、スリランカでは昨年だけで170人以上がゾウの被害で命を落としたという報道もあります。

スリランカ南東部のマッタラ・ラジャパクサ国際空港に近い幹線道路沿いで草をはむゾウの群れスリランカ南東部のマッタラ・ラジャパクサ国際空港に近い幹線道路沿いで草をはむゾウの群れ

大型開発のツケは国民へ

ゾウだけでなく、クジャクやサル、キツネなども生息地を追われ、道路を横断する姿が見られます。「危険 クジャクが前方に」と書かれた道路標識が、その現実を物語っています。

大型公共事業の借金返済は、スリランカ国民の生活を圧迫しています。さらに、これらの事業には汚職疑惑も浮上しており、国民の不満は高まるばかりです。

9月の大統領選では、巨額債務問題への対応や汚職撲滅を訴えた左派政党の党首が当選しました。これは、国民の不満が爆発した結果と言えるでしょう。

スリランカの現状は、私たちに多くの課題を突きつけています。開発と自然保護の両立、そして持続可能な社会のあり方について、改めて考えさせられるのではないでしょうか。