安倍元首相への「恩返し」は?揺れる保守層、自民党への失望と新たな受け皿

9月の自民党総裁選後、静かながらも確実に広がりつつある保守層の動揺。その震源地となったのは、安倍晋三元首相への深い敬愛の念と、総裁選における一連の出来事に対する失望感だ。

「安倍氏の恩をあだで返した」

東京・下町で町工場を営む男性は、長年自民党を支持してきた自称「岩盤保守層」。しかし、今回の衆院選では、地元の自民党議員に投票するのは見送るという。その理由は、総裁選で露呈した、ある旧安倍派議員の行動だ。

彼が支援していた総裁候補が第1回投票で脱落後、決選投票であっさり「安倍氏の宿敵」とされてきた石破茂氏に投票したことに、強い憤りを感じているという。「恩をあだで返した」という言葉には、保守層の間に根強く残る安倍氏への想いと、その想いを裏切られたことへの深い失望が込められている。

高市氏の敗北と「仕打ち」、広がる無力感

当初、「石破氏か、小泉進次郎氏か」と目されていた総裁選。そこに、保守的な党員・党友の熱烈な支持を背に、高市早苗氏が躍り出た。第1回投票では首位に立ち、保守層に希望を与えたのも束の間、決選投票で逆転負けを喫する。

岸田文雄前首相が主導したとされる石破氏支持の流れ。しかし、皮肉にも岸田氏のお膝元である広島県連では、高市氏が最多票を獲得していた。高市氏を支持していたという広島県連所属の市議は、投票結果に「無力感を覚えた」と肩を落とす。

石破首相はその後、かつて安倍氏を「国賊」と批判し、党役職停止処分を受けた村上誠一郎氏を総務相に抜擢。さらに、政治資金の不記載問題を起こした旧安倍派議員を「非公認」とするなど、保守層から見ると「冷遇」とも取れる人事を断行する。

こうした一連の動きは、安倍政権時代を支えてきた保守層にとって、「自分たちの声が届いていない」「切り捨てられた」という思いを加速させる結果となった。

保守層の新たな受け皿となるか?「日本保守党」の存在

安倍元首相への「恩返し」は?揺れる保守層、自民党への失望と新たな受け皿

自民党への失望を募らせる保守層の間で、新たな受け皿として注目を集めているのが、作家の百田尚樹氏が立ち上げた「日本保守党」だ。4月の衆院東京15区補選では4位に終わったものの、今回は小選挙区に4人、比例代表に26人を擁立。一部では政党要件を満たす5議席獲得の可能性も報じられている。

自民党の支持率は、時事通信の調査では28%と「危険水域」に突入。不支持率(30.1%)を上回る、異例の事態となっている。

揺れる保守層の動向は、今後の政局を左右する大きな要素となるだろう。果たして、今回の衆院選は、日本の保守政治の転換点となるのだろうか。