元大阪市長・大阪府知事で弁護士の橋下徹さんであれば、ビジネスパーソンの「お悩み」にどう応えるか。連載「橋下徹のビジネスリーダー問題解決ゼミナール」。今回のお題は「リーダー選びのポイント」です──。
※本稿は、雑誌「プレジデント」(2024年11月15日号)の掲載記事を再編集したものです。
■Question
総裁選の候補者たちに“独特の質問”をぶつけた理由
先日の自民党総裁選で9人の候補者とテレビ討論を行った際、橋下さんは「政策そのものよりも『思考プロセス』を見させてほしい」と、独特のスタンスで質問をぶつけました。この手法をとった狙いや効果は?
■Answer
正解のない世界で「どう行動するか」を確かめるため
自民党の総裁選は実質的な首相選びです。国のリーダーに名乗りを上げるのですから、石破茂さんをはじめ9人の候補者たちは全員がそれなりの政策パッケージを用意していました。しかし、それを番組内で披露してもらうだけでは、リーダーとしての個性や資質がわかりません。そこで活用したのが「思考プロセスを見る」というやり方です。
首相や自民党総裁に限らず、組織を率いるリーダーを選ぶには、具体的な政策・方針を吟味することも大事ですが、もっと大事なのはそこへ至るまでのプロセスを知ることです。漠然とした抽象論に、あえて個別具体的な「もし」をぶつけていく。それにどう反応するか。その言動に政治家としての地金が透けて見えます。
たとえば台湾有事に際して、中国本土に近い台湾・金門島を中国軍が海上封鎖したとします。当然、日本政府は現地の日本人を救出しようと試みるでしょう。そのとき問題となるのが邦人救出の法的根拠です。自衛隊法には「相手国の同意が必要」と明記されていますが、この場合の「相手国」とは台湾なのか、それとも中国なのか。その問いをぶつけてみると、小泉進次郎さんは「起こらないための努力や詳細なシミュレーションが必要」と、質問には真正面から答えませんでした。僕は海上封鎖が行われた場合を聞いたのに、小泉さんは起こらないようにすると言う。これに対し、閣僚経験の長い候補者たちは多くが「その場合は台湾」と回答しました。
もっとも、そうすると次に浮上するのが、台湾を「国」として扱うべきかということです。日米をはじめ国連加盟国の大半は、公式には中国が主張する「一つの中国」を認識し、台湾を国家として承認していません。国ではない相手に同意を求めるとなれば、その矛盾をどう考えればいいか。
ここで踏み込んだ見解を披露したのが林芳正さんです。「有事の際は超法規的に総理判断で邦人を救出し、その後ただちに政治責任を取って辞任する」という意思表明です。その選択については賛否が分かれるでしょうが、考え方として筋が通っており、視聴者は林さんの政治姿勢を知ることができたと思います。
このように僕の質問に真正面から答えていただくと議論も深まり、その人の思考プロセスが見えてきます。残念ながら小泉さんの答えでは議論が深まりませんし、答えられない問題については逃げるという思考プロセスが見えてしまいました。
自分がわからない問題にぶち当たったときには、問題点を指摘し、その点は勉強し直すと答えればいいのです。問題点さえ認識していれば、あとはブレーンに複数の最適解を作らせて、自分が選択すればいい。まさにAIのプロンプト指示と同様です。問題点を認識できなければ適切なプロンプトを立てることができません。
台湾と中国のどちらを相手国と見るべきか。一つの中国論が絡んでくることまでがわかれば、最後の結論まで出なくても十分ですし、逆にそこすらわかっていなければ残念ながら一国の首相としてはまだ不適格。
まさに思考プロセスが見えるのです。このようにその人の思考プロセスを理解すれば、他のあらゆる場面でも「この人はこういう行動をとりうる」と予測することが可能になります。