「マイナ保険証」“薬局グループ経営者”が語る導入の“実情”…「いま、現場で起きていること」とは


【画像】マイナ保険証の利用率は低迷が続いている(出典:厚生労働省)

他方で、医療関係者や様々な分野の専門家から、それらについての数値的根拠の不足、情報セキュリティ面での難点、情報プライバシーの侵害、不正利用の助長のおそれ、利便性の後退、国民皆保険制度との整合性等の問題が指摘されている。また、医療現場でのトラブルも報告されている。

そんななか、編集部に、首都圏で10店舗以上の薬局を経営するグループの代表をつとめるX氏からメールが届いた。「マイナ保険証のメリットは一定程度のものはありますが、しかしバラ色に遜色ない優れものでもないです…」

メールの内容は、薬局経営者・薬剤師としてマイナ保険証の実務に携わる立場から、マイナ保険証により実際に得られた「メリット」を具体的に紹介する一方で、政府がPRする「メリット」の内実について疑問を呈し、かつ「マイナ保険証への一本化」が行われた場合の懸念点を率直に指摘するものだった。

X氏のグループがマイナ保険証を導入した経緯はどのようなものか。それにより得られた「メリット・デメリット」は何か。現場で何が起きているのか。X氏にインタビューを行った。

マイナ保険証のシステム導入は「やむにやまれず」

※医療DX:保健・医療・介護の各段階で発生する情報やデータを、クラウドなどを通して、業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること(出典:厚生労働省)

X氏:「薬局の経営はどんどん厳しくなっています。まず、『大手ドラッグストアチェーンが儲かっている』という理由で、 “調剤報酬”が下げられています。

また、毎年の薬価改定で薬価差益が減少し、利益が縮小してきています。

そんななか、処方箋1枚あたりに『加算』を受けられるさまざまなしくみが設けられています。加えて、期間限定で所定のシステムや機器を導入した場合に受け取れる『補助金』の制度もあります。

たとえば、マイナ保険証のシステムや、電子処方箋のシステム、レセプト(薬局が保険者に提出する診療報酬明細書)のインターネット請求等を導入した場合には『医療DX推進体制整備加算』と、行政に対する申請によりそれぞれの設備導入にあたっての『補助金』を受けられます。

今の薬局業界は、それら『加算』『補助金』をすべて受けなければ十分な収益を得られず、経営が立ち行かなくなる構造になっているのです。

もちろん、機器の導入にはお金がかかります。たとえば機器の導入に1台あたり100万円かかった場合、国から2分の1の50万円、東京都から4分の1の25万円を受け取れても、残りの25万円は『持ち出し』になります。

しかし、補助金には期限が設けられており、その期間中に導入しなければ後々どんどん不利になります。

マイナ保険証のためのシステムも、そのためにやむを得ず導入しました」

政府は「医療DX」を推進しており、その枠組みを前提とした収益構造、つまり、薬局がそこに参画しなければ経営が成り立たなくなるしくみの構築を進めていることがうかがわれる。



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