「また徘徊?情けない!」
愛する夫が認知症と診断され、徘徊する日々。
心配と不安、そして疲労から、つい心無い言葉を浴びせてしまう日々を送る妻。
しかし、あることをきっかけに、94歳になる夫の徘徊はピタリと止まり、夫婦関係は劇的に改善したという。
一体、何があったのか?
本記事では、長年認知症患者を取材してきたノンフィクション作家、奥野修司氏の著書『認知症は病気ではない』(文春新書)から、ある夫婦の感動の実話を紐解きながら、認知症介護の真髄に迫ります。
90歳男性の徘徊を止めた「居場所」とは?
奥野氏の取材によると、94歳の男性の徘徊を止めた要因の一つに、「居場所」の存在があったという。
男性の息子である秀正さんは、父親の変化についてこう語っている。
「父は『小山のおうち』という施設に通い始めてから、将棋に熱中するようになりました。実は、父は若い頃、将棋に夢中だったそうです。施設で昔の情熱を再び燃やすことができたのです。以前は、母に責められ、家での居場所を失っていた父ですが、今では施設が彼の心の拠り所となっています。」
写真:イメージ ©getty
家族関係の変化がもたらす奇跡
秀正さんは、高齢の母親を支えながら認知症の父親の介護をする中で、家族関係の重要性を痛感したという。
「母は90歳になります。家事や介護など、多くの負担を抱え、限界を感じているようでした。80歳を過ぎた頃から、無理のない範囲で家事などを私に任せてくれていれば、母も心に余裕を持って父を支えることができたかもしれません。」
そして、奥野氏の「お父様の周辺症状を改善する上で、何が最も大切だったと思いますか?」という質問に対して、秀正さんは次のように答えた。
「大切なのは、本人、家族、施設職員、そして主治医の先生との信頼関係です。互いに信頼し合える関係があってこそ、状況は好転していくのだと思います。」
認知症介護成功の鍵は「信頼関係」にあり
軽度の認知症であれば、家族だけで介護を続けることも可能かもしれません。しかし、症状が進行すると、家族だけで全ての負担を背負うことは困難になります。
例えば、徘徊によって行方が分からなくなってしまった場合、家族だけで捜索することは容易ではありません。
外部のサポートが必要となるケースも多いでしょう。
地域社会や専門家の助けを借りるためには、日頃から互いに信頼関係を築いておくことが重要です。
本人が変われば家族も変わる
認知症専門医の高橋医師は、「家族関係が変われば本人も変わる。そして、本人が変われば家族の負担も軽くなる」と述べています。
秀正さん一家は、まさにこの言葉を実証する好例と言えるでしょう。
あなたも、愛する人を支えることができます
認知症は、決して他人事ではありません。
愛する家族が認知症と診断された時、どのように支えていけばいいのか、不安を感じる方も多いのではないでしょうか?
本記事で紹介した実例を通して、認知症介護における「信頼関係」の大切さをご理解いただければ幸いです。
認知症の方とその家族が、笑顔で日々を過ごせるように、私たち一人ひとりができることから始めていきましょう。