■批判、疑問視、見直し提言…研究者たちが学会で「臨時情報」の問題点を指摘
近い将来の発生が懸念され、最悪の場合、東日本大震災を一桁上回る規模の甚大な被害が想定される南海トラフ巨大地震。2024年8月8日に想定震源域内の日向灘でマグニチュード7.1の地震が発生したことをきっかけに、気象庁から「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」と「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が、いずれも初めて発表された。
国が「大規模地震の発生可能性が平常時よりも相対的に高まっている」として「日頃からの地震の備えの再確認」を呼びかけた一連の過程で、戸惑いや疑念、不安を覚えた人々が一定数いた。一方、地震や防災の専門家たちは、ほぼ定められた手順どおりに発表されたとはいえ、初の「南海トラフ地震臨時情報」(以下、「臨時情報」)をどう受け止めたのか。
10月21日~23日に新潟市で開催された日本地震学会の2024年度秋季大会で、複数の研究者が「臨時情報」や発表のしくみなどについて批判し、疑問を投げかけ、見直しを求めた。それらの内容について報告する。
■地震学の権威が痛烈な“ダメ出し”「科学的根拠と制度設計に問題あり」
石橋克彦・神戸大学名誉教授
「あえて批判的な考えを述べさせていただきます。まず、今回の臨時情報は科学的根拠が乏しく確度が低いと思います」
発表の冒頭、「臨時情報」をそうバッサリ切り捨てたのは、地震学の権威として知られる神戸大学名誉教授の石橋克彦氏だ。石橋氏は10月22日、「2024年8月8日に発表された南海トラフ地震臨時情報の問題点」と題した発表を行い、おもに科学的根拠と制度設計の2つの面から「臨時情報」を批判した。このうち科学的根拠が乏しいとする理由について、以下の4つの観点を挙げた。
■科学的根拠に乏しい4つの理由
1)「臨時情報」が発表されるきっかけとなった、8月8日午後4時42分に発生した日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震は南海トラフ地震の想定震源域の中で最も南西の縁に当たる部分で起きたが、地震や地学のデータから総合的に考えて、そもそも想定震源域が南西方向に広すぎる可能性がある。